「病気になってから、前しか向いてない」
――病気を発症してから今までを振り返って、改めてどう思いますか。
久多良木 発症からあっという間の7年でしたが、良かった、悪かったで言えば、良かったのかもしれません。
障がい者になって、当たり前だったことが、当たり前ではなくなった。スポーツを楽しめること、食べたい物を好きに食べられること、そして家族と一緒に居れること、今ではそれらの当たり前に感謝をしながら生活できています。
一度死にかけて、そこから奇跡的に助かって、僕の死生観は180度変わりました。何の変哲もない日常から、急に倒れて、救急搬送されて、10日間意識を失って、目が覚めたら手足がなくなって。世界が一変したんです。当たり前の生活って、突然当たり前じゃなくなったりするんですよ(笑)。
見飽きている景色、自由に動かせる身体とか大切な人との時間、どれもいつか終わりが来るんです。でも、いつかできなくなる事も今ならできるんですよね。見たい景色も今なら見に行けるし、今ならそばにいる人にありがとうも言える。
だから、今をどれだけ全力で太く生きるか。楽しめるか。僕は42歳で病気を発症して今49歳ですが、生まれてからの42年より病気になってからの7年間の方が濃い日々を過ごしていると思っています。
――そう思えるようになったのはいつ頃からですか?
久多良木 退院して家に戻ってきてからですかね。日常生活に戻ってから、よりもっと周りに感謝していかなきゃダメだなって思うようになりました。
今はまだまだやりたいことがたくさんあります。陸上はずっと続けたいですし、NPO法人を立ち上げて、健常者と障がい者、その家族も一緒に運動できるような形も作りたいです。もちろん家族との時間も大事にしたいし。
前しか向いていないので、止まっている暇がないくらい日々充実しています。
撮影=平松市聖/文藝春秋
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