緩和ケアは終末期の方だけが対象ではなく、例えば、がん治療中に生じる様々なつらさ、問題を解決するのも緩和ケアの一環です。先々の漠然とした不安に関わり、これからの過ごし方について話し合っていく過程も、緩和ケアの大切な役割なのです。

「緩和ケアは専門家だけが行う特別なもの」という認識から、一番かけ離れているのは研修医かもしれません。彼らが一人前の治療医として活躍する頃、はびこる緩和ケアの誤解は薄れているに違いありません。

ここでは、治療中からの緩和ケアのありがたさを実感した話をさせてください。

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私ごとなのですが、数年前に甲状腺がんと診断されて治療を受けた経験があります。

診断時に感じた様々な不安、治療の見通しが分からないこと、仕事をどうしたらいいかという不安、そして術後の痛みなど、患者にならないと実感できないつらさがいくつもありました。これらを解決してくれたのは、まさに緩和ケアでした。

医師だけでなく、看護師や薬剤師、がん相談支援センターの相談員などに助けてもらいました。

「死神が来た」という患者の反応

当時、私は毎日のように外来で多くの患者を診療し、また訪問診療のスケジュールも立て込んでいる状況。いつ仕事に復帰できるのかが気掛かりでした。

また、治療の合併症として心配していたのが、喉元の手術による反回神経麻痺による嗄声(声がかすれる)、甲状腺や副甲状腺のホルモンによる異常(活気の低下やしびれ)などでした。いずれも、緩和ケア医として人と対話することを仕事にしている私にとって、非常に大きな問題です。

こういった問題にも、少しでも不安を和らげて治療に臨めるよう、丁寧に関わってもらえたのです。これは間違いなく緩和ケアでした。

緩和ケアには、多くの大事な役割があるにもかかわらず、今でも「緩和ケア」という呼称により、患者からネガティブなイメージで受け取られてしまうことがあります。

この問題を特に感じているのが、がん治療中から患者をサポートしている緩和ケアチームです。かつて、私が大病院の緩和ケアチームで活動していた際、抗がん剤治療中の患者さんの病室に伺ったら「死神が来た」という反応をされたこともありました。そのため、緩和ケアチームの名前を「支持治療チーム」「サポーティブケアチーム」とあえて変えている病院もあるそうです。