でも、本当に名前だけの問題なのでしょうか。
問題の核心は「緩和ケア」という名称そのものではなく、医療者自身の緩和ケアに対する理解と、患者に対する伝え方にあるのではないでしょうか。
まずは、私たち医療者が変わらなければなりません。
「治療中の患者さんは受診できません」
先日、こんな患者さんが来られました。
乳がんの骨転移再発のため、大学病院でホルモン療法を受けている50代女性の田村さん。電車で1時間以上かけて、私の緩和ケア外来を受診されました。
「痛みのことや治療の副作用のことを主治医に相談しても、『渡してある痛み止めを飲んでください』と言われるだけで、なかなか相談にのってもらえないんです」
そこまでは、よくある話です。しかし、次の言葉に私は衝撃を受けました。
「緩和ケアも受けたいとお願いしたのですが、『うちの病院の緩和ケア外来は、治療中の患者さんは受診できません』と言われてしまって」
緩和ケア外来があるのに、受診できない。
これが現実なのです。
がん患者が抱える「日常の悩み」
田村さんは、インターネットで情報を探し、がん治療中からでも緩和ケアの相談を受けられる当院を見つけ出し、やや遠方であるにもかかわらず通院されるようになりました。幸いにも、きめ細かく鎮痛薬などを調整し、親身に相談に乗り続けることで、だいぶ楽になったようでした。
ただ、私は複雑な気持ちになりました。
早期からの緩和ケアの重要性が叫ばれて久しいにもかかわらず、なぜ彼女は他の病院まで足を運ばなければならなかったのでしょうか。
そこには、緩和ケアを提供する側である私たち自身がつくってしまっている、大きな壁があります。
がん治療の主治医は、手術や抗がん剤治療、検査の計画はしっかりと立ててくれるでしょう。しかし、患者さんの日常の悩みはどうでしょうか。
「これから仕事を続けられるのか」
「最終的に医療費はどれくらいかかるのか」
「このおなかの張りは我慢した方がいいのか」
「家族の今後を考えると不安で眠れない」