ローリング・ストーンズのギタリスト、キース・リチャーズの妻にしてモデル・俳優のアニタ・パレンバーグ(2017年没)。キースをして「理解を超えるところがあった」と言わしめたその知られざる人生を紹介するドキュメンタリーが公開中だ。次々に明かされる衝撃の逸話に、ストーンズフリークのジャーナリスト相澤冬樹も感嘆!
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手記と証言で構成された、想像を超えるアニタの足跡
「アニタという人は本当に独特な存在で、理解を超えるところがあった。ついていくだけで精一杯でね。でも、それが楽しかった」
ロック界の最高峰に君臨するローリング・ストーンズのギタリスト、キース・リチャーズにそこまで言わせるとは、アニタ恐るべし。キースの妻とはいえ、足跡はそれほど知られているわけではない。ストーンズフリークとしてはこの映画、観ずにはいられない。実際に観てみると……いい意味で期待を裏切られる。想像を超える内容だ。
主人公はアニタ・パレンバーグ。2017年に亡くなった後、自ら記した未刊の手記が見つかった。本作はその記述を柱に、俳優のスカーレット・ヨハンソンによる手記の朗読と、アニタの家族や近しい人たちの証言で構成されている。もちろん夫・キースの証言音声もふんだんに紹介されるからファンにはうれしいところだ。
最初はブライアン・ジョーンズと恋に落ちた
アニタは1942年、第2次世界大戦中にイタリアで生まれた。最初の記憶は「爆弾が投下される音」だったという。昔気質の保守的な両親に耐えられず、19歳でニューヨークに渡る。アメリカはロックンロール全盛期。「着いた瞬間、世界が開けた」という。モデルの仕事を始め、時代のグルーブにのる。「美容師も付けまつ毛も大嫌い」だったが、モデルとして世界を回る中「ミュンヘンで初めてストーンズに会った」。彼らが『サティスファクション』の全米ナンバーワンヒットで世界的スターにのし上がった頃だ。アニタは語る。
「楽屋へ行くとブライアン・ジョーンズがいた。メンバーの中で誰より美しく、知性が際立っていた。人が恋に落ちる時は一瞬だと思う。私のドッペルゲンガー、ブライアン」
そう、アニタは最初、キースではなくブライアンの恋人だったのだ。ブライアンとアニタはロンドンで暮らし、そこは仲間たちのたまり場となった。キースは明かす。
「俺はブライアンの家をよく訪れた。目的は彼じゃない、アニタだ」


