「直美の医師には解剖の知識がなさすぎる人がかなりいます」

──キレイになるために手術をしたのに、そうなったら悲しいですね。

村松 ええ。それに最近は“直美”(ちょくび:医師が2年間の初期研修を終えてすぐに美容医療業界に就職すること)の問題もあります。僕のような形成外科専門医から見ると、直美の医師には解剖の知識がなさすぎる人がかなりいます。

 顔の手術は人生を左右する可能性が高く、技術のない医師が手術するのはとんでもないと思ってしまいます。うちに来る患者さんも「美容整形で顔に傷あとが残ってマスクを外せない」と涙ながらに語る方は少なくありません。

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鼻のほくろ除去の傷あとに悩んで来院する患者も多い 村松医師提供

──村松さんは“直美”の何が一番問題だと思いますか。

村松 傷の治療の知識と経験がなさすぎることです。今は「美容外科医」と名のる医師がたくさんいますが、実は美容外科という診療科はありません。形成外科の中の1分野から発展したのが今の美容外科なので、形成外科をひととおり学んだうえでやるべきだと思うんですよね。

──形成外科医になると、どのような治療を経験するのですか。

村松 形成外科では必ず顔面外傷の治療を経験するので、顔の内側の構造、血流や神経、筋肉などについて徹底的にたたき込まれます。さらに口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)や耳などの先天奇形、さまざまな皮膚腫瘍などを経験して、ようやく「傷の治療」をきちんとできるようになります。そういう医師が美容外科に進むならいいですが、直美の医師はそれをすっ飛ばしているんです。

──経験の差が、そのまま患者さんの術後に出てしまう?

 

村松 直美の医師でも、手術を繰り返せば技術はある程度上がります。でも新人の医師にあたってしまった患者さんの傷は、一生残ります。しかも手術後の経過が悪く、傷あとが目立ったり感染症を起こす方は必ず出てくるんです。形成外科の知識があればそういうケースも対応できますが、美容の経験しかないと対応できず、患者さんは放り出されてしまう。それが非常に問題だと思います。

──他に、患者さんから相談を受けて感じることはありますか。

村松 傷あとを見ると、手術が雑な美容外科医が多いと思いますね。というのは、僕ら形成外科医は基本のキとして「皮膚や組織を“愛護的”に扱え」と教えられるんですよ。