オリジナルの脚本を執筆したフイファンも、イェンフェイとジエルーの起用を「イメージ通り、完璧のキャスティング」と喜んだ。

フイファン シャオアイを観客に嫌われない子にしたかったんです。脚本の要素を見ると、嘘つきで虚栄心が強く、嫌味にも見えかねませんが、イェンフェイが演じてくれたおかげで観客が共感し、同情できる人物になりました。嫌いになれないし、憎めませんよね。

シャオアイを演じるチェン・イェンフェイ Renaissance Films Limited©2024 All Rights Reserved.

リーウェン イェンフェイは、シャオアイの頑固で負けん気の強い面を見事に表現してくれました。“ピュアでかわいらしい”だけではないギャップが出たことがうれしい驚きです。ミンミン役のジエルーも、髪を切った姿には当時の広末涼子を思い出しました。90年代の優秀で聡明な女の子がそのまま現代に蘇ったようでした。

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時代のキーワード、ニコール・キッドマン

 90年代の台北をきちんと再現するため、ジンシェン監督は脚本のディテールや美術、小道具の細部までこだわった。台湾を代表する人気バンド・五月天(Mayday)や、日本ドラマ「ビーチボーイズ」やマンガ「スラムダンク」、当時の人気グッズ「キャシー」が登場するほか、実際のニュース映像も使用されている。

 四半世紀以上が経過した今、台北市内の風景は大きく変わった。しかし予算の都合上、すべてのロケ地を当時そっくりに飾りつけることはできない。それでも屋外の撮影では、90年代の雰囲気が残っているロケ地を探すことにこだわったという。

Renaissance Films Limited©2024 All Rights Reserved.

ジンシェン監督 脚本の段階で、シーンの場所や空間はきちんと決めていました。シャオアイとルー・クーが雨宿りをするシーンは西門町(筆者注:台北最大の繁華街で、「台北の渋谷・原宿」とも呼ばれる文化発信地)で撮りましたが、この町は当時とあまり風景が変わっていません。また、シャオアイとミンミンがバスを待つバス停の場面では背景に日本統治時代の建物が映っていて、これは当然90年代にもあったものです。

 もうひとつのキーワードは、シャオアイが憧れるハリウッドの人気女優ニコール・キッドマンだ。「当時の若い女の子たちにとっては、完璧な女性の象徴でした」とリーウェンは言う。「美しく、演技もできて、トム・クルーズとも結婚した“勝ち組”。シャオアイの成功者に対する憧れを表現したかったのです」

 ジンシェン監督も、当時からニコールの大ファンだった。その思いを表現するためにレンタルビデオ屋のシーンを脚本に盛り込み、ロケ地となった店舗を美術で改装し、台湾各地から当時のVHSビデオやパッケージをかき集めたという。「ひとえに、私の思いを映画で伝えるためです」と冗談交じりに笑った。