90年代、台北。名門女子校の夜間部に進学した少女は、同じ机をシェアする全日制の優等生と友達になる。あるとき、ふたりは学校を抜け出すために制服を交換する。それは、甘酸っぱくてちょっぴり痛い、青春時代の“終わりの始まり”だった――。
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台湾映画『ひとつの机、ふたつの制服』は、90年代の台湾で学生時代を過ごしたクリエイターが当時の体験をありったけ詰め込んだ、切なくてノスタルジックなコンプレックス・エンターテインメント。監督とふたりの脚本家が、物語のヒントとなった思い出と、90年代を今に蘇らせる意味を語ってくれた。
全日制と夜間部の埋められない溝
主人公の少女・シャオアイ(小愛)は、台北のエリート女子校「第一女子高校」への進学を決めた。入学したのは、全日制とは成績の差がある“夜間部”。世間でも、全日制の生徒からも「ニセ第一女子」と揶揄されるが、シャオアイは母親に逆らえなかった。
シャオアイは、教室の机をシェアする全日制の優等生ミンミン(敏敏)と手紙のやり取りをきっかけに友人となる。ある日、シャオアイとミンミンは、学校をサボるために制服を交換した。シャオアイは「本物の第一女子」になれたような喜びを感じるが、やがてふたりは同じ男⼦校⽣に想いを寄せ……。
『ひとつの机、ふたつの制服』の基になったのは、児童文学作家でもある脚本家シュー・フイファン(徐慧芳)の経験だ。モデルとなった名門女子校、“北一女”こと「台北市立第一女子高級中学」の夜間部に通っていた当時の思い出から着想したシナリオが、台湾の脚本コンペティション「優良電影劇本奨」の特別優秀脚本賞に輝いた。
シュー・フイファン(以下、フイファン) 若い頃は過去を振り返らず、ひたすら前進してきました。高校時代の思い出や感情は胸のうちに秘め、ただ前を向くのだと。けれども自分が中年になり、娘も中学生になって受験を意識するなかで青春時代を思い出したのです。当時はいろんな不安があり、同じ制服を着ていてもエリート女学生の一員には加われないと思っていた――いまだ自分のなかに残っていた気持ちを、脚本を書くことで癒すようでした。

