今年はクマに襲われる人が後を絶たない。クマによる死者数は過去最多を更新中である。こうした異変の先触れとも言える事件が、2021年に北海道札幌市で起きた。札幌駅から2キロしか離れていない場所に現れたヒグマが、人間を襲い始め……。(全2回の2回目/はじめからを読む)
(初出:「文藝春秋」2022年3月号)
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「クマとの共生」を掲げて30年
なぜ今、クマと人間との軋轢がかつてないほど高まっているのか。これらの事件の現地調査を行った道総研の釣賀一二三・研究主幹は、その背景をこう説明する。
「ひとつには近年クマの生息数が増えて、密度、分布域、出没する場所も拡大していることが挙げられます」
生息数が増加した理由として必ず指摘されるのが「春グマ駆除制度」の廃止である。戦後、北海道においては人口が急激に増加し、大規模な森林開発などが進んだ結果、生息圏を追われたヒグマによる家畜や人身への被害が相次いだ。そのため、「個体数減少策」として1966年に導入されたのが「春グマ駆除制度」だ。
足跡を追いやすい残雪期に冬眠明けのクマを中心に無差別に捕獲する同制度の“効果”は恐ろしいほどで、一部の地域では絶滅が危惧されるまで減少したと考えられた。
こうした状況を受けて、北海道は撲滅から共存へと180度方針を転換、1990年に春グマ駆除を廃止した。「クマとの共生」を掲げて30年を経た今、その個体数は着実に回復し、道総研によると2020年末における個体数推定の中央値は、全道で約1万1700頭となった。
