コロナ禍を正面から描いたミステリー

――『陽だまりに至る病』につきまして、コロナ禍を作中にがっちり絡めたことも含めて、創作の意図を教えてください。

『陽だまりに至る病』文春文庫

天祢 構想を練り始めたのは2021年ごろ。当時はコロナ禍がいつ終わるかわからず、不安な日々を送っていました。また、「普通の」学校生活を送れない子どもたちに心を痛めていました。40代の自分にとっての1年と、小中学生のそれとでは重みが違いますから。仲田シリーズは子どもの問題をテーマにしたミステリーである以上、「いまこの状況下の子どもを書かないわけにはいかない」と思ったことが執筆のきっかけです。

 ただ、迷いもありました。コロナ禍も、いつかは終わる。そうなったとき、新型コロナをテーマにした小説は一気に「時代遅れ」になってしまいます。身も蓋もない言い方をすれば、時代遅れの小説は読んでもらいにくい。これが何十年も経って歴史の一部となれば話は違ってくるのでしょうが……。

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 それでも「コロナ禍のいまの自分の心理状態でしか書けない小説があるし、書かないと一生後悔する」という思いが勝り、執筆に取りかかりました。あくまで「コロナ禍で起きた事件」ではありますが、コロナに関係なく、社会が抱えている問題を描いたつもりです。「なにかしないといけない」という焦りのような感覚がある一方、「いまの精神状態でしか書けないものがあるのでは」という思いもありました。

――たしかに当時、コロナ禍という状況にどう対応するべきか、何人もの作家の方たちから相談されたのを覚えています。時代設定をコロナ前に持っていくか、もうコロナは終わったという設定で書くかなど、みなさん迷っていらっしゃいました。

天祢 作家仲間の間でも、「登場人物にマスクをつけさせるべきかどうか」がよく話題になっていましたね。