言葉の障害も
対人恐怖症であらわれる症状は人それぞれだろうが、私の場合、発語にあらわれた。
「あ、あ、え、あ、え、あ、それは……」
言葉がうまく口から出てこない。文字は喉にひっかかり、口の先からボトボトとこぼれ落ちて、文章を作らないまま消えていく。吃音症だ。
「え? なんて?」
聞き返されると、ますます焦った。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
呂律は回らないのに、謝る言葉だけは滑らかだった。
さらに「さしすせそ」がまったく言えなくなった。元々滑舌が良いほうではなかったとはいえ、「サ行」を言っているつもりで、「タ行」になってしまうのだ。これは「構音障害」といって、ストレスから発症することもある体のサイン。
舌っ足らずの小さい子が「おしり」と言おうとして「おちり」となってしまったり、「おしっこ」を「おちっこ」、「さかな」を「たかな」と言ってしまったりすることがあるが、まさしくそれ。自分では無自覚だったが、ある日園児から「先生、変だよ」と言われて、自分が障害を起こしていることを知った。
絵本の読み聞かせをしている時のこと。
「わーてんちだ、可愛いね!」
出てきた天使の絵に対して、私はそう言ったらしい。
「先生、『てんち』じゃなくて『てんし』だよ」
ん? 私、なんて言った?
「てんちでしょ?」
「違うよ、『てんし』だよ」
耳ではサ行とタ行の区別がついていても、「てんし」と言おうとすると、実際に口から出てくるのは「てんち」。
あれ、言えなくなってる……。
園児たちはやさしい。「また間違ったら教えてあげるよ!」と言って、私がどんな滑舌でも私の読み聞かせに耳を傾けてくれた。その無邪気さにどれだけ救われたかわからない。子どもたちは本当に本当に可愛くて、穴だらけになっていた心の隙間を埋めてくれた。
あの時私が保育園で働くことを選んだことは人生のベスト選択上位3位に入っている。
