“エイリアンが作ったかのような”複雑怪奇な技術

 だが、中国の半導体が世界の主流になることはないと私は見ている。なぜなら、半導体製造には非常に複雑なサプライチェーンが必要だからだ。

 現代の最先端の半導体技術は、「エイリアンが作ったのではないか」と思うほど複雑だ。

 たとえばCPUに数ナノメートルのトランジスタを数十億も集積する技術は、プラズマ物理や精密機械工学など多岐にわたる分野の知の結晶だ。素材から始まり、半導体チップの材料となるシリコンウエハーの製造、洗浄・乾燥、酸化、リソグラフィ、エッチングなど数百の厳密な工程があり、それぞれの工程作業を担う専門的な会社と、各工程に必要な製造装置を製造する会社がサプライヤーとして参加している。そのいくつかの技術は一企業しかもたない独占的な技術だ。

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©AFLO

 さらに、半導体を設計するソフトウエアを提供する会社は限られており、アメリカの傘下にある。中国製もないことはないが、そのシェアは1.3%程度にすぎない。

 加えて、素材であるシリコンウエハーに関しては4%以下、そして半導体製造装置は5%程度である。

 この複雑極まりない半導体グローバルサプライチェーンは、たとえ中国が巨額の資金を投入しても、そう簡単に真似できるものではない。

 中国による軍事転用可能な先端技術の獲得を強く警戒するアメリカ政府は、2022年10月に半導体および半導体製造装置の中国への輸出制限措置を発表し、その後も対象品目を拡大している。日本、オランダ、ドイツ、韓国を含む同盟国に対しても規制への同調を求めている。

 半導体関連輸出規制がますます強まるなかで、中国が自給自足体制を確立するのは現実的に難しいだろう。

AIでは独自の強みを発揮する中国

 一方で、中国はAI開発の分野においては、独自の強みを発揮しつつある。

 14億人を超える人口から得られる膨大なビッグデータは、AIモデルの学習と精度向上において有利な条件だろう。AI時代においてデータは宝の山である。

 顔認証システムや自動運転技術の開発で収集されるデータは、AIアルゴリズムの訓練に活用されている。他にも圧倒的なデータ量があると予測精度が上がる分野として、たとえば都市交通の最適化による渋滞減少、疾病予測と個別医療の提案、需要予測による在庫管理の効率化、パーソナライズ広告やレコメンデーションによる顧客体験の向上などが挙げられる。これらの領域での今後の中国の動きにも目が離せない。

進化する自動運転技術(上海)©AFLO

 中国のスタートアップが開発したDeepSeekは、グーグル、メタ、Open AIといった巨大テックの10分の1程度の予算で、同レベルの性能を持つ大規模言語モデルを開発し、世界に衝撃を与えた。高性能なチップへのアクセスが制限されるなかでも、ソフトウエアの効率化やアルゴリズムの工夫によってブレイクスルーを生む余地は十分にあるのである。