半導体サプライチェーンの地政学リスク

 現在、半導体の製造の大半は東アジアで行われている。中国、台湾、韓国、日本が中心で、これに少しではあるが、シンガポールとマレーシアが加わる。

 製品別にアジア地域のシェアを見ると、メモリーチップについては90%、ロジックチップが70%台前半、半導体チップの材料になるシリコンウエハーは80%台前半となっている。

 また、メモリー半導体では、韓国のSKハイニックスとサムスンが高いシェアを握っており、この2社でDRAM市場の約7割を支配している。

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 『エブリシング・ヒストリーと地政学』より

 ちなみに、半導体製造に不可欠な原材料、例えばネオンガス(主にウクライナ)やコバルト(主にコンゴ民主共和国)など、供給源が地理的に限定されているものも多い。こうした地域で紛争や輸出規制などが生じれば、半導体供給に深刻な影響を及ぼす可能性が高いだろう。

 半導体をめぐるこうした地政学的な脆弱性は、2020年からの新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって図らずも露呈した。ロックダウンによる工場停止、物流の混乱により、自動車産業をはじめ数多くの分野で半導体不足が発生したことは記憶に新しい。グローバル・サプライチェーンが特定の地域に過度に依存するリスクが改めて突きつけられたのである。

 この状況に一番危機感を覚えているのがアメリカだ。東アジアは台湾海峡を挟んで、中国と台湾の情勢悪化が大きな地政学上のリスクになりつつある。しかも半導体は、私たちの日常生活や産業にあまりに深く関わっているだけでなく、軍事技術にとって重要なパーツになっている。

 2022年にアメリカは「CHIPSおよび科学法」で、多額の補助金と投資税額控除を通じて、インテル、TSMC、サムスンなどの巨大企業による米国内への大規模な製造拠点投資を促している。また中国に対して、高性能AIチップ、製造装置、EDAソフトウエアに対する厳格な輸出管理規制をかけて封じ込め策を展開する。

エミン・ユルマズ氏

 例えばジャベリンなどの誘導ミサイルには、センサーや半導体が多数搭載されており、それらの性能がそのまま武器の優位性につながっていく。その半導体の大半が火薬庫になりつつある東アジアの4カ国に集中しているのは、アメリカの安全保障上の大きな問題ともなる。