この事件では、被害女性と面識がなかった犯人は、女性に声をかけて公衆トイレに押し込み、20分間、体を触った。犯人は「いちゃいちゃしたかった」と供述している。
女性が連れ込まれたのは「だれでもトイレ」。つまり「入りやすい場所」だった。さらに、入り口が道路側ではなく、線路側にあるので「見えにくい場所」でもあった。
人の多い場所ほど、「うちの子」は見られていない
駅やスーパーのトイレで事件が起こりやすい原因は、トイレのデザインが犯罪機会論に基づいていないことが第一だが、それだけでなく、そこが「不特定多数の人が集まる場所」でもあるからだ。したがって、行楽地のトイレも「不特定多数の人が集まる場所」であることに変わりがないので、そこも危険である。場所に注目する「犯罪機会論」の視点から言うと、行楽地のトイレも、「入りやすく見えにくい場所」である。
「不特定多数の人が集まる場所」には、誰でも簡単に入れる。つまり、「入りやすい場所」である。さらに、そこでは「注意分散効果」と「傍観者効果」が生まれる。要するに、他人の視線が期待できない、「心理的に見えにくい場所」である。
注意分散効果とは、人の注意や関心が分散し、視線のピントがぼけてしまうことだ。人が多いと、親は「誰かがうちの子を見てくれている」と思いがちだが、実際のところ、誰も「うちの子」を見ていない。「うちの子」にスポットライトを当てるのは親だけである。
また、傍観者効果とは、犯行に気づいても、「たくさんの人が見ているから、自分でなくても誰かが行動を起こすはず」と思って、制止や通報を控えることだ。その場に居合わせた人全員がそう思うので、結局誰も行動を起こさない。その様子を見て誰かが行動を起こすかといえば、それもない。今度は、「誰も行動を起こさないので、深刻な事態ではない」と判断してしまうからだ。
ショッピングモールは“監獄のデザイン”が受け継がれている
例えば、長崎市で男児が男子中学生に連れ去られ殺害された事件(2003年)でも、買い物客でにぎわう家電量販店、つまり、「不特定多数の人が集まる場所」が誘拐現場となった。この事件では、「当時、店内は会社帰りのサラリーマンや中高生でにぎわっていたというが、有力な目撃情報は寄せられていない」と報じられている。このように、不特定多数の人が集まる場所は、「入りやすく見えにくい場所」なのである。