いじめ、性の問題行動、SNSでの誹謗中傷、暴力、自傷。今や子どもは、加害者にも被害者にもなり得る時代。しかも、その「きっかけ」や「背景」は、大人が思う以上に複雑に、かつ見えにくくなっている。なぜ子どもによる加害が起こるのか。被害はどのように拡大していってしまうのか。

 ここでは、教育現場を長年取材してきた石井光太氏の著書『傷つけ合う子どもたち 大人の知らない、加害と被害』(CEメディアハウス)より一部を抜粋して紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)

写真はイメージ ©siro46/イメージマート

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子どもたちが大人の指示通りにデートDVに対処できない理由

 社会的にデートDV事案の報告が増えるにつれ、警察は成人だけでなく、10代に向けた啓発活動も行うようになっています。

 デートDVの内容や相談先を記したポスターを作成し、学校など公的機関に配布しているのです。学校によっては授業で教えたり、外部講師を招いた勉強会を開催したりすることもあります。

 一連の啓発活動において、大人はデートDVの被害に遭った時の対処として、次のように指導します。

「恋人に暴力を振るわれたら、すぐに逃げて親や先生などの大人に報告しましょう」

 ごもっともな意見だと思います。しかし、当事者となった子どもたちは、大人の指示通りに実行できるでしょうか。

 今の子どもたちは、相手に弱みを握られているがゆえに、デートDVの被害の実態を明らかにできないということが少なからず起きているのです。この弱みの1つが、カップルがデートの際に自撮りする画像データです。

 今のカップルにとって、スマホはお互いを結びつけたり、幸せな瞬間を記録したりするものになっています。親世代の人たちは若い頃にプリクラで恋人と腕を組んで撮影をした記憶があるかもしれませんが、それと同じ感覚で、彼らはスマホで自分たちの姿を撮影することで恋愛の幸せを噛みしめています。