読売新聞の社会部記者として、長年スクープを報じてきた清武英利氏。その後、巨人軍の球団代表になるも、2011年に「読売のドン」こと渡邉恒雄氏の独裁を訴え、係争に。現在はノンフィクション作家として活動を続ける。
そんな清武氏が、波乱万丈の記者人生と現代の記者たちの奮闘を描く『記者は天国に行けない 反骨のジャーナリズム戦記』(文藝春秋)を刊行した。
今回は清武氏が激戦のワールドシリーズを見て思い出した、日本球界の名将2人が残した鮮烈な言葉を「特別読切」の第3弾として紹介する。
延長18回の熱戦の後にドジャース監督が放った言葉
人間の生活は言葉によって成り立っている。だから、人が激しく戦ったとき、日常を超える言葉が生まれないはずがないのだが、今年のアメリカ野球は監督の言葉一つをとっても痛烈で生々しく、すっかりスレてしまった私の感性に冷水をかけられたように感じた。
7年間、読売巨人軍の球団代表を務めたこともあって、私は日本野球びいきだ。しかし、今季のワールドシリーズ(以下Wシリーズ)の激闘の後、彼の国の監督たちが発した言葉を追って毎日、新聞やネットで拾うのが楽しみになってしまった。そして、巨人軍代表だったときと同じことを思った。
――監督やコーチというのはつまり、選手やファンに対する激励業なんだな。
球団代表時代の苦渋は、拙著『記者は天国に行けない 反骨のジャーナリズム戦記』に記したが、熱狂が過ぎたいま、あなたにも野球人の激励の巧妙さや熱意を共有していただきたくて筆を執った。
Wシリーズは大谷翔平や山本由伸らの活躍もあり驚くことの連続だったが、特に記憶に残ったのは第3戦の後である。試合は延長18回に眉のつり上がったドジャースの強打者フレディ・フリーマンがバックスクリーンにサヨナラ弾をたたき込み、ブルージェイズ相手のゲームに終止符を打った。試合後、デーブ・ロバーツ監督は「今夜は本当に多くのヒーローがいた」と語り、興奮のままに続けた。
「相手チームも全力を尽くした。誰かが勝たなければいけない試合で、幸運にもドジャースにはフリーマンがいた。本当に選手たちを誇りに思う」
社員が会社で成果を上げたとき、こんな言葉を放つ上司がいれば、部下たちはどれだけ励まされることだろうか。(私が30年間近く生きた記者世界は何と言葉が貧しかったのだろう)。仕事のやりがいは、その会社が自分にとって役立つか、眼の前の上司が自分をどれだけ認め、向上させてくれるか――によって生まれてくる。

