川口 実際、私は何度も壁にぶち当たり、差別されてきました。たとえ「母のせいで学校に通えなかった」という理由があっても、現実社会では“学歴ゼロ”という負の印象はとても大きいです。

 それに、初対面の人に勉強を教えてもらうとき、教員免許がある人とない人、どちらに教わりたいでしょうか。大半の人は教員免許がある人を選ぶはずですよね。

──そういうことだったんですね。

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川口 Threadsでは「義務教育を受けていない人に教師は務まらない」とも批判されました。そういう意見は受けとめています。でも正直なところ、これまでの人生で母と姉から人格を否定され続けてきたので、インターネットで知らない人から何を言われても、それほどダメージにならないというか……。今現在、私の周りにいて、リアルに喜んでくれたり尊敬してくれる人がいる限り、その人たちの気持ちを一番大切にしていきたいと思っています。

 母と姉からはいつも「社会は甘くない。おまえなんか好かれるわけない」「おまえみたいにウジウジしてるやつは何もできん」と言われ続けてきました。けれど実際に社会に出て、学校にも通い、いろんな人と関わってみると、肉親よりも社会のほうがよほど私を“人間”として扱ってくれます。だから今は「社会は甘くない」という言葉はウソだと思ってます。私にとっては、家族のほうが100倍辛かったです。

川口さんにとっては社会よりも家庭のほうが何倍も生きづらかった 写真はイメージ

──その経験が、今の川口さんにつながっているんですね。

川口 私も人間関係で悩みますし、嫌われることもあります。でも普通の人は、本当に死んでしまうと感じる殺意で殴ったり、包丁を向けたりはしません。だから誰かに嫌なことを言われたら、あのときの母の「殺意」を思い出すようにしています。あれに比べたら、だいたいのことは怖くないです。

「お姉ちゃん、あなたの言葉は間違ってたよ。今、すごく幸せやよ」

──今、母親と姉に思うことは?

川口 母に対しては恨みの気持ちはありません。ただ「関わりたくない」のひと言です。姉については、復讐というより見返したいと思ってきたので、今の私を見てどう思うかは少し気になります。

 姉は、私が幸せでいるのが誰よりも許せないはずです。だから私に仕事があって、勉強をして、恋人もいるという今の状態は、復讐に近いのかもしれません。もし会う機会があったら「お姉ちゃん、あなたの言葉は間違ってたよ。私、学校通ってるよ。友だちがたくさんできたし、家族みたいに仲いい人もできたよ。今、すごく幸せやよ」と言いたいですね。

 それでも年に何回か、「生まれてから20歳までの時間を返してほしい」と落ち込むことがあります。メンタルが疲れてくると、当時の記憶が蘇るんですよ。仲良くしてくれる友だちも、裏で私の悪口を言ってるかもと疑心暗鬼になったり。このトラウマにはずっと付き合うんだろうな、と。

高校の友人たちと 川口さんは左端(本人提供)

──そう簡単には割り切れないですよね。

川口 でも一方で、もっと人と知り合って同じ時間を過ごして、誰かの記憶に残りたいとも思います。私は15歳までこの世の中にいないも同然だったので、誰かの記憶の片隅に残ることが「自分の生きた証」になると感じるんです。それを重ねればいつか、生まれてよかったと思えるかもしれません。

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