満島ひかりがずっと苦しんでいたこと
こうして満島は、作品ごとに役を生きては“殺し”ながら、俳優として地歩を築いていくことになる。ただ、その後もたびたび、作品の世界にはまりきれないことがあったようだ。先述の『愛のむきだし』での経験を語ったインタビューでは、《物語の中の架空の家族と役で話す時間があったら、本当の家族と話したいと思うし。何か変な気持ちになるときがいっぱいあります》とも明かしていた(『週刊現代』前掲号)。
作品のなかで演じることと現実のなかで生きることとのギャップには、別のインタビューでの次の発言を読むと、けっこう深刻に悩んでいたように思われる。
《幼い頃にみつけた、作り物の世界の中で演じる行為によって出合えた、生きることへの実感ですが、演じることそのものや他者になって生きる時間への違和感に、ずっと苦しんでいたのも事実です。私ではない時間を生きてごめんなさい、そこに真実の気持ちを見出してごめんなさいと、どれだけ泣いて、何度お墓参りに行って先祖に手を合わせたことか(笑)。好きなことをして心を痛める、という変な状態になっていました》(『tempo』2021年9月号)
黒柳徹子が「私を演じるならあの子しかいないわ」と推薦
この間にも映画、ドラマ、舞台と出演した作品は多く、枚挙にいとまがない。主人公に殺害される役を演じた映画『悪人』(2010年)などのようなシリアスな作品ばかりでなく、黒柳徹子の自伝をドラマ化した『トットてれび』(2016年)などでのコメディエンヌぶりも印象深い。それ以前、NHKの連続テレビ小説『おひさま』(2011年)で満島は戦前から戦後を舞台にヒロインの親友の一人を演じたが、最終回の現代の場面では同役で黒柳がサプライズ出演していた。その縁もあって、黒柳は「私を演じるならあの子しかいないわ」と満島を推薦してくれたらしい。
演技力を高く評価されながらも、どんな役でもすんなり演じられたわけではない。ドラマ『ごめんね青春!』(2014年)に出演したときには、宮藤官九郎の脚本に独特のリズムを感じて読み方が全然わからず、不安になってしまい、宮藤に直接相談しに行ったという。
このとき、珍しく酒に酔っ払った状態だった満島は、ずっとテンションが高く、台本のことで話に行ったのに結局一度も台本を開かないまま、楽しい話だけして別れたという(『CREA』2018年3月号)。作品に対して真摯に向き合うあまり悩みながらも、つくり手との関係を楽しむ満島の両面をうかがわせるエピソードである。俳優でもある宮藤とはその後、坂元裕二脚本のドラマ『カルテット』(2017年)で共演もしている。

