年間3万人を診察する総合診療医の伊藤大介さんは、「健康診断こそが深刻な病気の『芽』を摘むことができる唯一の方法です」と強調する。

 そんな伊藤さんが初の単著『総合診療医が徹底解読 健康診断でここまでわかる』を10月20日に刊行した。

 血圧、血糖値、コレステロール、腎機能、がん検診……など検査数値の見方が180度変わる実用的なポイントが満載の内容になっている。今回は本の中から、糖尿病リスクを知るためには「血糖値」だけでなく、「尿糖」「HbA1c」の結果を見ることが重要であることを解説した箇所を抜粋して紹介する。

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血糖値が「点」なら、尿糖は「線」の視点

【尿糖】

「尿糖」とは、尿中に糖分があるかどうかを示す項目で、尿検査によって分かります。そもそも糖尿病は、かつて「蜜尿病」ともいわれ、尿が蜜のように甘くなることに特徴がある疾患だと考えられていました。

 尿糖は特殊な試験紙を採尿した尿につけて、色の変化で判定するのです。

 先ほどの血糖値は「その瞬間」の血液中の糖分濃度を測定しており、いわば「点」のような視点で糖尿病のリスクを見ているのに対して、尿糖は膀胱内で蓄積されて排尿されたものを調べるので、その蓄積されている間の糖分濃度を反映しています。ある意味では、「線」のような視点で糖尿病のリスクを見ることができるのです。

 ただ、尿糖にも問題点があります。

 尿糖は「マイナス(陰性)」か「プラス(陽性)」か、で結果を出すのですが、「なかなか陽性が出にくい」という特徴があるのです。しかも、厄介なことに一度でも「陽性」が出た場合は、残念ながら体内では、すでに深刻な事態が起きてしまっているのです。陽性の結果を見た医師は「かなり糖尿病が進行している」と考えるでしょう。

画像はイメージです ©takasu/イメージマート

誤診が起きないように医師に服用中の薬を伝える

(-)~(4+)まで段階がありますが、もし(1+)という結果であれば、尿糖が基準値より高いことを意味し、絶対に病院に行かなければいけない状態です。尿から糖分を出す特殊な薬を飲んでいるのであれば話は別ですが、万が一、(4+)などという結果が出たときは、極めて深刻な状況で、緊急の処置が必要になります。

 考えてみれば当然のことで、糖分はもともと人間が生きるうえで欠かせない栄養素です。そのため腎臓にもブドウ糖を再吸収する仕組みがあるのですが、それにもかかわらず、尿中に糖分が漏れ出ているということは、体内によほど糖分が余っている証拠で、血糖値も非常に高い状態にあると推測されるわけです。

 このように尿糖は、血糖値に比べると、より長いスパンで糖分を測れる利点があるものの、結局のところ詳細な数値を把握できないという欠点があります。

 ちなみに糖尿病や慢性腎臓病、心臓病の薬の中に、「SGLT2阻害薬」という、体内の糖を尿から排泄させる薬があります。この薬を服用している場合は、深刻な糖尿病ではないにもかかわらず、尿糖の結果に「4+」などと表記され、担当医がビックリして大きな病院へと紹介状を書くケースが見受けられます。そのような誤診が起こらないように健康診断の際には、必ず自分が服用している薬を医師に伝えるようにしてください。

伊藤大介医師 ©文藝春秋