銃撃犯がカメラマンに囁いた「衝撃発言」
前日もゴレシュはダコタの前で様子を窺っている時、この太った青年と顔を合わせていた。彼はハワイから来たと言い、ジョン・レノンのサインをもらおうとしていると語った。その口調に訛りがあったので、ハワイから来た人間に南部訛りがあるなんて初耳だと思った。ニューヨークではどこに泊まっているのか、と訊くと答えようともせず、やけに突っかかってきた。
その青年に翌日また顔を合わせると、こんどは前日の非礼を謝ってきた。そこでジョンが出てきた時、呆然としている青年を小突いてサインを手に入れられるようジョンに近づけたのはゴレシュだった。
ジョンがダコタ前から消えると、南部訛りの青年はジョンと一緒の写真がほしいと頼んできたが、ゴレシュはマンハッタンから川向こうのニュージャージーに住んでいるので、焼き付けた写真をその日中に渡すことは不可能だと返事した。
日が沈み午後8時頃になると、ゴレシュはニュージャージーに帰ると言い出した。二人がもし夕食に出かけたら2時間くらいで帰るだろうが、このぶんだとスタジオへ行った様子なので夜半過ぎまでまず戻ることはないだろうと判断した。
南部訛りの青年は、もう少しいたらどうかと言ってゴレシュを引き止めようとした。しかし、アマチュアカメラマンはその言葉も聞かず、駐車していた車に乗って消えていった。一人残されたその青年は夜が更けてきてもあきらめず、ダコタ・ハウス前の舗道に立って二人の帰りを待っていた。
夜11時近くになると、信号が変わって白いリムジンが西七二番通りに左折してきた。ダコタ正面の舗道のところに止まった。リムジンの後ろのドアが開いてヨーコが最初に出てきた。それからジョン・レノンがリムジンから降りてきた。何本かのカセット・テープを手にして、青年の前を通り過ぎ、足早に天井の高いアーチ状入り口のなかを歩いて行った。その時、突然、5発の銃声がたてつづけに響いた。