それまでのアイドルと一線を画した存在に

 中山のデビューは、男女雇用機会均等法が成立した時期と重なる。マネージャーで事務所社長の山中則男氏は、彼女がそれまでのアイドルとは一線を画し、「いまを生きる同世代の女性の等身大の気持ちを体現して、ブレイクしたのだと思う」と分析している(『中山美穂 「C」からの物語』青志社)。

 口数は少ないが、意志が強く、はっきり物を言い、自立心旺盛な中山は(実際に母や妹を自分が食わせていくという意識が強かった)、男性に媚びない、現代的でアクティブなヒロイン像を確立しつつあった。ファンだった中森明菜、夏目雅子の影響も少なからずあっただろう。

山中則男『中山美穂「C」からの物語』(2025年、青志社)

“ミポリン”が誕生した『ママはアイドル!』

 中山美穂が“中山美穂”を演じたのが、1987年4月スタートの『ママはアイドル!』(TBS系)だ。アイドルの中山美穂(これは芸名)が、かつての担任教師(三田村邦彦)と極秘結婚し、長女(後藤久美子)、長男(永瀬正敏)、次男(大原和彦)と同居するというストーリー。人気絶頂の中山と後藤の共演が大きな話題を呼んだ。

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 岡崎友紀主演のヒットドラマ『おくさまは18歳』をベースに、当時流行していた「業界ドラマ」の要素を大幅に導入。虚実入り混じった設定が特徴で『加トちゃんケンちゃん ごきげんテレビ』など、多くの芸能人やテレビ番組がそのまま登場した。実在の芸能人の名前や写真が出てくることも多く、結婚を反対された主人公の「(松田)聖子ちゃんは子ども生んでもアイドルじゃない?」というセリフも非常にタイムリーだった。虚実といえば、小泉今日子ファンという設定だった永瀬は、後に小泉本人と結婚している(2004年に離婚)。

中山美穂「派手!!!」(1987年)

 ドラマの中のニックネーム“ミポリン”は今も親しまれる彼女の代名詞となった。中山美穂という名前が、時代のアイコンだった証明である。中山と親交が深かったミッツ・マングローブは、この時期について「中山美穂は中山美穂以外を演じてはならなかった時代」だったと指摘している(AERA DIGITAL 2016年12月27日)。