ドラマに出演する中で生まれた葛藤
しかし、中山自身はこの状況に苦しんでいた。当然ながらドラマの中の中山美穂は自分ではない。しかし、まわりは同一視してしまう。虚像と実像の埋めがたいギャップ。同作で演出をしていた吉田秋生氏も中山が「(今、自分がやっていることは)違うんじゃないか」といつも悩んでいた姿を目撃している(『月刊カドカワ』1997年1月号)。主題歌のタイトルは「派手!!!」だが、普段のファッションは質素なものを好んでいた。
1987年10月スタートの『おヒマなら来てよネ!』(フジテレビ系)は、脚本・伴一彦、演出・河毛俊作、プロデューサー・山田良明の各氏という『な・ま・い・き盛り』と同じ座組。当時のフジテレビの広告には、『中山美穂のおヒマなら来てよネ!』という表記が見られる。他のドラマにそのような表記はなく、『志村けんのだいじょうぶだぁ』と並ぶとバラエティ番組のようである。
一人二役を演じ、撮影中に過労でダウン
中山は信じられないぐらいシャイで地味な希望(のぞみ)と明るい子連れの洋子の実は双子の二役を演じた。伴による企画案には、『な・ま・い・き盛り』の普通の女の子としての中山美穂と『ママはアイドル!』の究極のアイドルとしての中山美穂の両方を楽しめるドラマだと記されている。
一人が二役を演じるドラマは珍しくないが、二人がずっと掛け合いを続けるドラマは珍しい。合成技術の進歩とともに、中山の演技力の確かさを感じる。第5話には、中山美穂が本人役でドラマ撮影をしている様子を希望と洋子が見ているというすさまじい場面がある。スターじゃないと成り立たない企画だ。
最終回はサンタの格好で「中山サンタ」と名乗り、共演の松村雄基、金山一彦とコントを演じる「脱ドラマ」風の演出があった(スタッフの笑い声も入っている)。フジテレビらしい振り切った遊び心が垣間見える一方、佐藤慶や沢村貞子などの重鎮も出演しており、過渡期のドラマだったことがわかる。なお、本作の撮影中に中山は過労でダウンしている。

