中山が演じてきたのは、中学生、高校生、大学生、OL、看護師、派遣社員など、時代の推移の中で、そのときどきの同世代の女性たちが自分を投影しやすい等身大の役柄がほとんどだった(アイドルを演じたこともあったが)。
彼女の主演ドラマを見れば時代がわかる。80年代は不適切で破天荒だったし、バブル期はみんなテンションが高かった。90年代は意外なほどドメスティックだったし、90年代後半は不穏だった。
そして中山が演じた役柄の多くが、自分を持ち、前向きで、哀しいことがあっても健気で、本音を言える女性だった。男に酷い目に遭わされて、うつむいて動けなくなってしまうような役柄はまったく演じていない。これが長きにわたって日本の社会を照らし続けた俳優・中山美穂に与えられたイメージである。彼女はそれを一身に背負ってきた。
「おばあちゃんになるまで演じられたらな」
一方、そのようなイメージから自由になれたのが『Love Letter』ということだろう。中山は大いに解放感と演じる喜びを感じたはずだ。休業から復帰後は、かつての中山美穂のイメージから離れて、何にでもなれる自由な芝居を楽しんでいたように見える。いずれにせよ、見る人それぞれの心の中に、それぞれの中山美穂がいるはずだ。
「年を重ねること、経験を積むこと、などなど。すべてがお芝居の肥やしになる」(FRaU 2018年5月18日)、「これからはお返ししたいなという気持ちがあって、おばあちゃんになるまで演じられたらなって思ってます」(スポーツ報知 2018年1月18日)と演じることに関する意欲を見せ、「いまは、いい具合で自由になった気がします」(週刊女性PRIME 2020年1月12日)と充実ぶりを語っていた中山美穂。まだまだこれからだった。
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