西は紀伊水道に面し、東の山肌は見渡すばかりのみかん畑。そんな和歌山県中央部の海沿いに、紀勢本線初島駅はある。
お客は1日500人ほど。小さな港町を抱えているだけの、ありふれた無人駅のひとつだ。訪れたのは平日のお昼前。天気は良くても、通学にも通勤にも使われない時間帯の初島駅は人もまばらだ。
電車が着くたびに、1人や2人が乗り降りするばかり。どこにでもあるような、そうした小さな駅である。
そんな初島駅だが、実は「世界初」の称号を手にしている。今年の7月、世界で初めて「3Dプリンター」を用いて建設した駅舎の供用を開始したのだ。
つまり、初島駅は「世界初の3Dプリンター駅」なのである。
工期もコストも大幅カット
「3Dプリンター駅舎のメリットは、コストの圧縮や工期短縮です。コスト面では、これまでの初島駅と同等の駅舎と比べて約3割減、また、現場での工期も約1カ月短縮することができました」
JR西日本で初島駅の建築を担当した鉄道本部施設部建築課の益枝大輔さんは、こう胸を張る。通常ならば、駅舎の建設は数カ月。
その間、お客はちょっぴり不便な思いをしなければならない。それが1カ月も短縮され、コストも大幅にカットできる。
こう聞けば、まるで良いことずくめの3Dプリンター駅舎。が、大いなる問題は、「3Dプリンターで駅舎を作りました」と言われてもまったくピンと来ないことだ。
3Dプリンターが世に現れて話題になったのは数年前。いまではネット通販を使えば数万円で3Dプリンターを買うこともできる。けれど、それが毎日不特定多数の人に使われる駅舎とは……。
そういうわけで、3Dプリンター駅舎とはどういうシロモノなのか、初島駅にやってきたのである。

