――体がよく持ちましたね。
鳥羽 うん。一番、大変だったのは、獲れたマグロをマイナス60度の冷凍庫まで運ぶこと。甲板は30度以上あるでしょう? 100度近くを行ったり来たりが本当につらくてね。何しろ冷凍庫では3分で鼻毛が凍るし、ひどいと凍傷になるんだから。何人も手足の指を飛ばした仲間を知っているよ。あまりに過酷でノイローゼになる乗組員もいたね。
――そんな極限状態だと、イライラして喧嘩になったりしませんか?
鳥羽 血気盛んな海の男同士だから、どうしても喧嘩は多いよね。俺が乗ったのは高校生もいる実習船だったから、まだ穏やかなほうだったけど。だから喧嘩の元になる賭け事は船の上では絶対、禁止。何しろ不満をためても陸と違って四方が海で逃げ場がないからね。いったんトラブルが起きると、もう殺されるか殺すかの話になっちゃう。実際、他の民間船では殺し合いも実際に起きたと聞いたこともあるよ。
――殺し合い?
鳥羽 刺したり、殴ったりの派手な喧嘩じゃなくても、海の上だから、まあ、いろいろある。例えば、夜中、起きて船の縁でションベンするでしょう? その間、俺、ドキドキするんだ。
――なぜですか?
鳥羽 後ろに誰かいないかってね。当時のマグロ漁船では、ノイローゼになって海に飛び込んで自殺する人もいたから、もし誰かに背中をポン! と押されて海に落ちても、自殺か他殺か分からないでしょ?
パナマで前借りした100ドルを握りしめてナイトクラブへ…
――遠洋マグロ漁船では、絶対に誰かに恨まれたらいけませんね。そんな過酷な遠洋マグロ漁船での楽しみは何でしたか?
鳥羽 そりゃ、「陸」だよ! パナマを通る時に、給油したり食料なんかを補給したりする。行きと帰りに3日間ずつ港に立ち寄るんだけど、「これでタバコや酒とかおやつを買いなさい」って、それぞれ前借り金として100ドルもらえるんだ。だから、みんなできれいなお姉さんがいるナイトクラブに直行してさ。
――ナイトクラブで何を?
鳥羽 それは、ご想像におまかせします。で、オールナイトして全部、使っちゃうからすっからかん。
――おやつを買うお金は?
鳥羽 ないよ。だから船に残っている年寄りの船員に「お金、貸してください」って頼むの。年寄りは、もうナイトクラブとか行かないで早く寝るから、お金を持っているんだ。
――久しぶりの陸は若者には楽しいですよね。
鳥羽 そう、天国だね。たまに寄港地の女性と恋に落ちて、海外で暮らしている奴もいる。
――最近では、マグロ漁船も働く環境が良くなって、乗りたい若い人が増えているそうですね。
鳥羽 ああ、そんな話を最近、聞いてびっくりしている。何で乗るんだろうね。でも、この間、マグロ漁船の知り合いにブリッジを見せてもらったんだけど、コンピューターだらけで、まるでゲームセンターみたいだったよ。作業もだいぶ機械化されているって。




