――鳥羽さんの若い頃とはだいぶ違うんですか?
鳥羽 そうだね。もうシャワーは海水じゃない。今は海水をろ過して真水を作れるようになったから。乗組員も大部屋じゃなくて、個室で部屋に冷蔵庫やテレビもあったり、もうアパートで暮らしているのと変わらないんだ。新卒の若者も来るし、サラリーマンやお坊さんが転職してきたりするって聞いたよ。
――マグロ漁船のイメージが変わりますね。ところで鳥羽さんはマグロ漁船を降りた後はどうしたんですか?
鳥羽 それが、こんなきつい船に二度と乗るまいと思っていたんだ。お袋も「もうマグロ漁船に乗らないでいいよ」って涙ながらに言うし。だけど、「船乗りは3日やったらやめられない」って本当なんだよね。陸に上がって港のホテルに泊まると落ち着かないんだ。船のエンジンや波の音がなくて静かすぎて眠れない。不思議だよねえ。それで結局、もう1年(笑)。
――マグロ漁船を2年連続乗った後、すぐに歌手を目指したんですか?
鳥羽 いや今度はカツオ漁船に。
――マグロからカツオ? どちらも遠洋漁業ですよね?
鳥羽 そう。でもマグロは8カ月だけどカツオは3カ月間と短い。マグロ漁船で冷凍庫担当になって体を壊してね、それで今度は期間の短いカツオ漁船に乗ったんだけど、今度は大部屋じゃなくて4人部屋だったから快適でね。
それにカツオは一本釣りなんだけど、甲板が埋まるほどポンポン釣れる。おもしろくて性格にも合っていたんだけど、マグロの頃の体調不良がとれなくて、結局、陸で板前修業をすることにしたんだ。
「調子に乗ってドラムセットを買ったら、借金して返せなくてまたカツオ漁船に逆戻り」
――板前! ついに陸に上がったんですね。
鳥羽 そう。地元のホテルで寮生活することになったんだけど、下っ端で毎日、皿洗いと魚のウロコ取りばかり。昔だから親方の拳固はよく飛んでくるし、なかなか包丁も握らせてもらえない。
――陸でも苦労が続きますね。
鳥羽 いや、マグロ漁船と比べたら天国だよ。でもたいていの新人は「つらい」とすぐやめるから、いつまでも俺が下っ端なんだ。
ただ、このホテルからだよ、歌い始めたのは。ある日、社長から「お前、歌がうまいんだってな。最上階のラウンジでちょっと歌ってこい」って言われて。遠洋漁業の時は漁場に着くまでは時間があるから、よくギターを弾いて甲板で歌っていたんだ。それで板前の恰好のまま、ラウンジで歌ったら客に大うけ。それ以降、板前と歌手の二足のわらじだよ。
――包丁より先にマイクを握ったんですね。
鳥羽 そう。でも調子に乗ってドラムセットを買ったら、借金して返せなくてまたカツオ漁船に逆戻り。そのカツオ漁船に乗ったら、今度は寄港地で若い奴にナイトクラブで大盤振る舞いをしちゃって散財したり。
――根っからの海の男なんですね。
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