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“右翼の大物”の子孫 83年生まれが『超国家主義』を写し続けた理由

“右翼の大物”の子孫 83年生まれが『超国家主義』を写し続けた理由

写真家・頭山ゆう紀インタビュー

note

宗教に走った宮澤賢治の「現場」

――なかでも、印象的な場所はどこでしたか。

頭山 安田財閥のトップ、安田善次郎を刺殺する朝日平吾が見ていた大磯の海岸は今でも思い出しますね。この静かな海を当時、朝日は眺めていたんだろうなと思うと、複雑な気持ちになるというか。もちろん今では風景が変わった部分もありますが、場所そのものは今でもあり続けている。そこに時間が堆積している、歴史が確実に存在しているというような。あと、インパクトで言えば鶯谷の「ダンスホール新世紀」。

朝日平吾が見た海 ©頭山ゆう紀

――この場所にかつて、青年たちを魅了する日蓮主義を主導した「国柱会」の会館があって、22歳の宮澤賢治が訪ねてくる。

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頭山 まさに営業時間中にお邪魔したんですが、中に入ると「うわー、こんな世界があるんだ」って感動しました。キラキラの照明が降り注ぐ中、中高年の男女が社交ダンスを踊っている傍らで、中島さんと編集者の方と私の3人の頭の中には「賢治が熱狂した国柱会がここに……」みたいな考えが巡っているわけで、なかなか得難い時間でしたね(笑)。この仕事で「国柱会」に関する施設はほとんど巡ったのですが、おかげで宮澤賢治のイメージはガラッと変わりました。

――学校の国語で習う宮澤賢治とは違う。

頭山 教科書に載っている人という印象しかなかったから、宗教にハマっていた実像を知って驚きました。私、一人旅が好きで岩手の一関に行った時に賢治が働いていた採石工場跡にできた「石と賢治のミュージアム」に行ったことがあるんですよ。そこのミュージアムショップに賢治が書いた法華経の走り書きがうっすら印刷されたメモ帳があったんですけど、国柱会と賢治の関係を知ってから「あれ買っとけばよかったー」って悔やみました(笑)。

ダンスホール新世紀 ©頭山ゆう紀

――現在の東大の近所、本郷の住宅街に突如と現れる「求道会館」の写真も面白いですよね。ここは浄土真宗の僧侶・近角常観という人が建てた仏教の教会堂だそうですが。

頭山 道幅が狭くてとにかく、撮りにくかったです。それと、まさに「そのまま」きれいに残っている建物だったので、私なりの解釈がしにくくて、それも撮影の難しさになりましたね。