いや、そうした年齢差を考慮せずとも、これから実家にお邪魔させてもらう立場なのだ。奢ってもらうのも悪いように思い、なんとか支払おうとする。しかし、エティーリは決して受け取ろうとはせず、彼の優しさに甘えさせてもらうことにした。
「高校までは、ずっとサッカー部だった」サッカー少年が陸上の道に進んだワケ
マタトゥに揺られる約20分間、狭い車内で身を縮めながら、エティーリはずっとスマートフォンの画面でサッカーの試合映像に夢中になっていた。聞けば、イングランドプレミアリーグの強豪チーム、マンチェスターユナイテッドの大ファンとのこと。すでに結果がわかっているダイジェスト動画なのに、プレイに一喜一憂して首を横に振ったり天を仰いだりしている。
マンチェスターユナイテッドは世界中にファンを抱えるビッグクラブだが、近年の成績は低迷している。エティーリいわく、安定して活躍するフォワード選手の不在が原因らしい。普段はあまり口数が多くない、控えめな性格のエティーリだが、サッカーの話は楽しそうに熱弁をふるっていた。
「陸上じゃなくて、サッカーなんだね」
「高校までは、ずっとサッカー部だったんだ。見るのも、プレイするのもサッカーが好き。家にテレビが無かったから、試合の時間になるとテレビがある近くの商店までよく観に行っていた。値段がクラブによって変わるんだよね。人気クラブ同士のマッチになると50シリング、普通のチームとの対戦だと30シリング。小さい頃、あれが僕の一番の楽しみだったんだ」
それほど好きだったのに、なぜ陸上の道に進んだのか。
「昔から、長距離を走るのが得意だった。きっとサッカーではプロになれない。だけど、走ることでならお金を稼げるかもしれない。そう言われて、高校を卒業してから知人の紹介で陸上チームに入ることにした」
エティーリは、その陸上チームで本格的に才能を見出され、ほどなくして東京国際大学の留学生として海を渡ることになる。この発掘システムについては後で詳しく触れるが、ケニアでは本格的に練習を積んでいない若者が、いきなりその才能を開花させるケースは珍しくない。エティーリもそうした1人であり、陸上を始めた理由は稼ぐため、つまり「仕事」としてなのだった。
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