青山学院大が10時間41分19秒の大会新記録で、2年連続8度目の総合優勝を果たした第101回箱根駅伝。
『あまりに細かすぎる箱根駅伝ガイド!』(通称「あまこま」)の監修を行う、駅伝マニア集団「EKIDEN News」(@EKIDEN_News)の西本武司さんは、原点回帰とばかりに、今大会は全10区間追いかけ観戦を敢行。毎年恒例、テレビには映らなかった“細かすぎる名場面“を振り返る。
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「箱根駅伝とM-1は似ている」“二代目山の神”柏原竜二さんも指摘
今年の箱根駅伝は僕の中で発見がありました。それは「箱根駅伝とM-1は似ている」ということです。これは”二代目山の神“の柏原竜二さんと話していたときに気づいたことです。
僕は昔、吉本興業に勤めていたのですが、「漫才」と「M-1」は、似て非なるものと思っています。たとえばNGK(なんばグランド花月)のトリを務めることと、M-1で優勝することはまったく違うのです。
NGKでトリを務められる人は、どんな舞台に立っても老若男女笑わせることができる。一方、最近のM-1は“競技漫才”と言われていて、4分間の中でいかに効果的に審査員とお客さんの心を掴むかというルールに特化した、ドメスティックな進化を遂げています。どちらが上というわけではなく、どちらも面白いけれど、でも全然違うんですね。
「陸上競技」と「箱根駅伝」も同じです。どちらも走る競技なんだけど、陸上競技は世界共通のルールで誰が速いかを競い、箱根駅伝は箱根駅伝で勝つことに特化した戦略を立て、それを実行できた大学が勝つというゲームになりつつあります。
その中で令和ロマンのM-1と青学大の箱根駅伝はとても似ていると思いました。どちらも傾向を分析し、1年かけて微調整を重ねながら完璧にハックをやりきる手法です。
2023年のM-1を制した令和ロマンは連覇を狙うべく、テレビにはほとんど出ず、M-1で勝つための漫才を磨き上げ、2024年に連覇を果たします。
一方の青学大は、昨年、大会前に体調不良者が続出して練習が満足に積めない中で大会新記録で優勝。その結果からこれまで完璧だと思われていたピーキング「原メソッド」を見直し、今大会を迎えました。偶然産まれた大会新記録を必然のものにする。これが101回大会での青学のテーマです。
箱根で勝つことに特化した戦略を立て、5区を走った若林宏樹選手を「山の神」ならぬ「若の神」と名付けてしっかりと箱根の盛り上がりポイントを抑え、さらに6区の山下りでは野村昭夢選手というスターを生み、新たな見せ場まで作ってみせました。
令和ロマンが2年連続トップバッターで漫才をし、しっかり会場を盛り上げてM-1連覇したように、青学大も箱根の見どころである「山登り、山下り」で箱根のお客さんをしっかり満足させて連覇するという偉業を成し遂げた。「ただ、勝つだけではなく山でも魅せて勝つ」ことで、うるさがたの箱根駅伝ファンも認めざるを得ない状況を作って連覇を果たしたのです。
大会後、青山学院大の原監督はいみじくも「(各大学の)メソッド対決になっていると思う」とコメントを残していましたが、つまり令和ロマンはM-1の、青学大は箱根駅伝での勝ち方=メソッドを知り尽くしているということです。
今回の箱根で、向こう5年、どこも勝てないかもしれない青学大の「箱根駅伝メソッド」が出来上がってしまったと僕は思っています。これはこれで面白いんだけど、僕としては今回のM-1におけるバッテリィズのような、メソッドよりも天然でとにかく面白いという存在も、箱根駅伝に現れてほしいなと思っています。
さて、前置きが長くなりましたが、それぞれの区間を振り返りましょう。