青学大の2連覇で終わった第101回箱根駅伝。全区間追いかけ観戦へと繰り出した駅伝マニア集団「EKIDEN News」(@EKIDEN_News)の西本武司さんが今大会で注目したのが、「箱根駅伝とM-1の類似性」だ。往路に続き、私的注目点を織り交ぜつつ、テレビでは伝わらない復路の名場面を振り返る。

【6区】「人間じゃない」青学大・野村昭夢が山下りのヒーローになったワケ

 2020年大会の6区で東海大の館澤亨次選手が出した57分17秒は、不滅の区間記録とされていましたが今大会、青学大の野村昭夢選手によってついに破られました。

 5区の山登りを好走したランナーは「山の神」と異名がつくのに対して、6区は下りのスペシャリストがいたとしても、5区ほど話題にならないのは否めません。それをひっくり返そうと虎視眈々と狙っていたのが、野村選手でした。

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6区で区間新を叩き出した青学大・野村昭夢 ©︎時事通信社

 まず、今回の6区は原晋監督が描いたであろうM-1的ともいえる勝ち方でした。

 箱根では「前半は強かったけど後半はちょっと落ちて、でも逃げ切ったね」みたいな勝ち方はよくありますが、そんなマイナスなことは言わせない。今回の青学大は上りも魅せて、下りも魅せる。M-1でいえば1本目で会場の雰囲気をつかみ、2本目で毛色の違うネタでさらに盛り上げるという戦い方です。

 6区はどの大学も、どちらかというと凌げばOKで、56分台なんて考えてもいなかったと思います。

 この計画の何がすごいかというと、56分台を出すために野村選手はSNSで「通過タイムを伝えていただけるとありがたいです!」と沿道に向けて呼びかけていたんです。もちろんチームメイトも要所でタイムを伝えますが、それだけでなく、観客も巻き込み、沿道の応援を力に変えようとした。野村選手の自己プロデュースや戦略を含めて、やれることをすべてやり切ったのは本当にすごいことです。

 実は復路の朝にフラグがありました。2021年に6区区間賞を獲得した元駒澤大の花崎悠紀選手が

「多分、6区の上り最速が館澤さん、下り最速が自分だけどそのタイム足して56:40~56:50。56分台出たら、よーくその人見てみてください。多分人間じゃないです。」

とポストをしていたのです。

Xより

 これまでの6区区間賞の選手は、上りでタイムを稼ぐ選手、下りで稼ぐ選手、下ってからの上りで粘る選手、大きく3つに分類されていました。つまり56分台を出すには上りも下りもオールマイティに走れなければいけない。これは6区を走った選手は誰もが実感しているはずで、それほどに野村選手の走りは異次元だったのです。

 ただ、この下りの技術は、他のレースではまず生かされません。館澤選手も区間新を出したあと、次の1年を棒に振るほど調子を崩しました。世界で唯一生かされるとしたら、前半がほぼ下りのボストンマラソンぐらい。実際、学生時代に6区を2度走った川内優輝選手はこの大会で優勝をしていますし、いつか野村選手がボストンを走ってくれないかなぁと思っています。