2011年夏、ロシア・カムチャツカ半島で起きた、あまりにも衝撃的な熊襲撃事件。父は即死し、19歳の娘は熊に襲われながら母に電話をかけ続けた――。「お母さん、熊が私を食べている」。電話越しに伝えられた最期の1時間とは? 宝島社のムック本『アーバン熊の脅威』より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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「お母さん、熊が私を食べている!」
2011年8月、カムチャツカ半島のペトロパブロフスク。45歳の父・イゴールと19歳の娘・オルガは、山中を流れる自然豊かなパラトゥンカ川へ散策に出かけた。車を川のほとりに停めて、2人で森の小道を歩いていると、高さ2メートルにもなりそうな草むらから、熊が突然飛び出してきた。出会い頭に熊が腕を振るうと、これに頭部を直撃されたイゴールは悲鳴も上げる間もなく即死してしまった。
オルガは懸命に逃げたが、熊は100メートルも行かないうちに追いつき、オルガの足を掴み上げた。悲鳴を上げて助けを求めたが周囲に人はいなかった。
熊に倒され、食いつかれたオルガは携帯電話を取り出して、藁をもすがる思いで母親に電話した。
「お母さん、熊が私を食べている! 痛い、助けて!」
母は最初、冗談だと思っていた。
つい先ほどまで家にいたオルガから「熊に食べられている」と言われても信じるほうが難しい。しかし娘の悲痛な叫びが止むことはなく、受話器からは獣のうなり声のようなものが聞こえてくる。
そこでようやく、本当に熊に食われているのだとわかった。
