ランナーが体に貼るパワーテープでおなじみのメーカー・ファイテンで、長年選手を見てきた澤野宏大さんが昨年、プーマに転職したのです。昨年、話題となった「こめかみファイテン」の立役者がこの澤野さん。これまで箱根駅伝の期間中は、前日夜に選手のもとを訪れ、コンディションにあわせて自らテープを貼っていったといいます。選手の身体を熟知した人がいるのは、チームにとっても心強いものです。

 ちなみに國學院大の青木瑠郁選手は元々プーマを愛用していましたが、今季の出雲と全日本では他メーカーを着用。ところが結果が振るわず、11月に行われる上尾シティハーフマラソンの直前に「もう一度プーマを履きたい」と前田監督に打ち明けたそうです。

 ふった元カノに復縁を迫るようなもの。なかなかに気まずい状況です。そこで前田監督はプーマに連絡。二つ返事でシューズを送ったのも澤野さんでした。プーマを履いた青木選手は上尾で優勝し、箱根駅伝の1区で区間新記録を叩き出したのです。いまごろ、青木選手の区間新記録を我が事のように喜んでいることでしょう。

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プーマを履いて上尾シティハーフで優勝した國學院大の青木瑠郁選手 ©EKIDEN News

Onのキーパーソン移籍で、ナイキの復活なるか

 5位以下も見てみましょう。まずはOnです。今大会では駒澤大の佐藤圭汰選手、青学大の折田壮太選手、日体大の夏見虹郎選手の3人が着用。佐藤選手は10区で区間新記録を出しました。ファッション性も高く、日本での認知度も高まっているOnですが、ひとつ心配なことがあります。本国スイスで開発を担っていたジョーダンが、最近ナイキに移籍したのです。

Onを履いてゴールテープを切った青学大の折田壮太選手 ©時事通信社

 ジョーダンのこれまで職歴はアディダス、プーマ、On。そしてついにナイキのプロダクトに関わるのです。すでにダイヤモンドリーグや世界陸上の現場でもリサーチに余念がありません。今年はニューイヤー駅伝から箱根駅伝まで、あらゆる中継所でジョーダンの姿がありました。現在ナイキはシェア率を下げていますが、もしかしたらジョーダンからナイキの逆襲が始まるかもしれない。そんな期待も抱いてしまいます。

「カムバック・ミズノ」現象は広がるか

 そしてミズノは今回、2名の着用に留まっていますが、実は新シューズ「ハイパーワイプ」が支持を伸ばしています。箱根ではハイパーワイプを履いた早稲田大の小平敦之選手が、9区2位の快走を見せています。

 僕は毎年、シューズの趨勢を読み解くため、全日本大学女子駅伝も見に行っています。今季、この大会で優勝を飾ったのはミズノがサポートをする城西大学。そして富士山女子駅伝でも、城西大学が優勝を果たしたのです。

ミズノのシューズを履き、昨年の富士山女子駅伝を制した城西大、主将の金子陽向選手 ©EKIDEN News

 また、昔ミズノを愛用していた選手たちからも、続々とポジティブな感想が寄せられています。なかには「ウェーブライダーのような履き心地が厚底で味わえるんです!」と、ウエーブライダーを履いたことがない僕に興奮気味に語る選手もいるほど(笑)。またキャリアの終盤を迎えている選手がミズノのシューズで復活したという事例も出ていて、そこかしこで「カムバック・ミズノ」といえる現象が起きているのです。来年の箱根はミズノ復活の大会になる可能性も秘めています。

 各メーカーのマーケティング力が際立った今大会でしたが、来年はどんな変化が起きるのか。箱根駅伝だけでなく、実業団や世界大会なども視界に入れながら、来年も熾烈なシューズ戦線をお届けしたいと思っています。

構成/林田順子(モオ)