青山学院大学が10時間37分34秒の大会総合新記録で、史上初となる2度目の3連覇を果たした第102回箱根駅伝。

『あまりに細かすぎる箱根駅伝ガイド!』(通称「あまこま」)の監修を行う、駅伝マニア集団「EKIDEN News」(@EKIDEN_News)の西本武司さんは、今大会でも追いかけ観戦を敢行。恒例のテレビではわからない“細かすぎる名場面”を振り返った。

1区_スタート ©時事通信社

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青学大・原晋監督の「箱根駅伝脳」がすごかった

 昨年の箱根駅伝直後、僕は「文春オンライン」で「向こう5年、どこも勝てないかもしれない青学大の『箱根駅伝メソッド』が出来上がってしまった」と言いました。選手を選ぶスカウティング、トレーニングだけにとどまらない日々のコンディショニング、そして箱根駅伝当日へのピーキング。原監督が作り上げた箱根の勝ち方=メソッドは、どの大学も敵わないと思ったからです。

 ところが今年のオーダーを見て驚きました。原監督は自らが作り上げた青学大の型、「レース序盤に主導権を握り早々とピクニックランへ持ち込む」という定石を自ら壊しにきたからです。

 5区を走り、従来の区間記録を1分55秒も上回る1時間7分16秒をマークした黒田朝日選手。彼は過去2回、エース区間の2区を走り、2年生の時は区間賞、3年生の時は区間新(区間3位)を出した大エースで、定石通りであればエース区間の2区に配置をするはず。他大学が2区黒田包囲網を引く中、これまで走ったことのない5区を任せたわけです。

 青学大は1区16位と出遅れ、小田原中継所の時点では誰もが往路優勝は早稲田大だと思っていました。早稲田大の5区は、昨年の丸亀ハーフマラソンを1時間00分06秒で走り日本歴代4位タイ、ワールドユニバーシティゲームズのハーフマラソンを大会新記録で優勝、全日本大学駅伝の8区では、母校のレジェンド渡辺康幸さんがもつ日本人区間記録を30年ぶりに更新と、山だけなく平地でも速い選手として進化した“山の名探偵”工藤慎作選手。盤石と思って間違いなかったわけです。

 工藤選手はトップの中央大から射程圏内である1分12秒遅れの2位で小田原中継所をスタート。そして黒田選手が4位でタスキを受け取ったときの工藤選手との差は2分13秒。どう考えてもセーフティーリード。「さすがの黒田も相手が悪い」というみんなの予想を裏切ってきた。

 黒田選手が工藤選手を抜くシーンも良かった。最高地点からの下りで詰めていくシーンは、“二代目山の神”柏原竜二さんの1年生の時とまるで同じ。実際、当時、柏原さんに抜かれた早稲田大の三輪真之さんも「柏原君に抜かれたあたりの大鳥居前のデッドヒート17年前の記憶がフラッシュバックしました!!」とXにポストしています。

 二代目山の神・柏原竜二誕生の残像が残っているファン達が、「こりゃ、ひょっとしてひょっとするかも」とテレビに釘付けとなりました。原監督は「青学が強すぎて、箱根駅伝は逆に退屈です」と嫌味を言われたこともあったでしょう。

 そんななか原監督は、勝つだけでなく、黒田選手がスーパースターとしてもっとも輝くにはどうすればよいか、一番面白い駅伝にするにはどうしたらよいのかを考え尽くしていた。それが今回の5区でひっくり返すという展開につながったのでしょう。

 原監督は毎回、箱根駅伝前に「○○大作戦」というテーマを発表していますが、正直ちょっとどうかな?と思う年もあり、テレビでの滑りがちなコメントも多い印象でした(原監督、すみません笑)。

 でも今回の往路ゴール直後に黒田選手に名付けた「シン・山の神」には感服せざるを得ませんでした。単なる「新しい山の神」ではなく、「シン・ゴジラ」と同じように、これまでの伝統をリスペクトしつつ、箱根に新たな概念を持ち込んで、新たな時代を作っていくという強い思いが感じられたからです。

青学大の原監督 ©EKIDEN News

 原監督はなんだかんだいって「箱根駅伝脳」を持つ人なんだろうと思いました。365日、四六時中、箱根駅伝のことしか考えていない。寿司屋やラーメン屋がその日の天気や気温を見てシャリや麺を微調整をするように、原監督は定石や常識にとらわれず、その時々の状況や、世の中の空気までも考えてオーダーを組み立てていく。

 どうしたら手堅く勝てるかではなく、どうやって箱根駅伝を面白くするのかを誰よりも考え尽くしている原監督によって、「シン・箱根駅伝」の時代がやってくるのではないかと予感しています。