白川さんが紛争地で見たものとは……
初めてシリアに行った時は、戦争とは無関係の一般市民が無差別の銃撃、爆撃によって負傷し、次々と運び込まれてくる現状に言葉を失った。
難民支援で向かった南スーダンでは、当初の予想に反して銃撃戦が勃発し防空壕への避難を余儀なくされた。戦闘がひと段落し、町なかの病院に戻ると、何者かに火を放たれた小児病棟には焼け焦げた子どもの遺体が転がっていた。
ガザ地区での医療支援を終えた後、イスラエルの空港では全裸で身体検査をされ、数時間に及ぶ尋問を受けた。パレスチナの支援者に対するあからさまな嫌がらせだった。
「行く場所、行く場所で、同じ人間として信じられない行為や光景を見てきました」
それでも、紛争地に向かうのはなぜ? という問いに白川さんは柔らかく微笑んだ。
「イラクのモスルがイスラム国(IS)から解放された後、モスルの病院にISの子どもが運び込まれてきました。シリア人スタッフからISの想像を絶する非道な振る舞いを聞いていましたが、スタッフは両親が自爆テロをして孤児になったその子を献身的に看護しました。その時、人間の愛、強さを感じたんです。そういう人たちを援助するのが私の仕事。戦争は怖いけど、屈したくないんです」
しらかわゆうこ/1973年、埼玉県出身。幼い頃から読書が好きで、図書館ではいつも紛争や飢餓に苦しむアフリカの子どもたちを捉えた写真集を眺めていた。「戦争を止めなきゃいけない」とジャーナリストを目指したことも。今年7月、初の著書となる『紛争地の看護師』を上梓。