「とにかく将棋が強ければいい」わけではない

糸谷 大学では多角的に見ることを学ばせていただきました。哲学もビジネスも、他者の視点を想定するという意味では似ています。大学には様々な学問があって、同じテーマでも人によって捉え方が違ってきます。それを思えば、将棋界の見方もいろいろありますよね。

 将棋界にいれば、将棋が強い、ストイックに将棋だけをやる人が正義なわけです。でも、将棋に何の興味もない人からすれば「ただ遊びが強いだけじゃないか」といわれる可能性もある。実際、世の中がそんな風潮になってしまったら、将棋界はどうしようもなくなります。社会で将棋がどういうプレゼンスを占められるかを考えないといけません。

 大学の研究はどれほど価値があるかを自分たちで示さないと研究費が降りてきませんが、ある意味でそれと近いかもしれませんね。まあ、そこは冗談半分ですけど。

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――「将棋は社会や人生にどう役に立つんですか」「文化としてどういう価値があるんですか」という問いに対し、自ら言語化できなければ、行政や企業に安定して協力してもらうのは難しいかもしれませんね。特にいまの時代は。

糸谷 積極的に将棋の価値を認めていただくこともありますけど、文化的なまなざしだけでご支援いただくのは厳しい。やっぱり多くのファンがいてくださると、それだけで力をいただいていると感じます。

企業が将棋に何を期待しているのか

――糸谷八段は棋戦運営部と関西本部総務を担当しています。実際、企業との交渉の場に行くと、どういう社会的な期待を将棋に感じますか。

糸谷 協議中の案件もあるので詳細はいえないんですが、企業によってどこを重視するかは違います。将棋といっても娯楽、伝統文化、教育の一助と様々な側面がありますから。

 その中で、やはりポジティブなイメージはそれだけでも強いですよ。例えば海外で大活躍されている野球の大谷翔平さんに協賛したい企業はたくさんいらっしゃるはずです。

 それと同じように、いいイメージがあるものはそれだけでかなりの価値を持ちます。いくら日本文化だといっても、イメージが悪かったらご支援はいただけないので。