2018年3月、東京地検特捜部はリニア中央新幹線の工事を巡り、大成建設、鹿島建設、大林組、清水建設のスーパーゼネコン4社を独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で起訴した。この事件の一部始終について、ノンフィクション作家の森功氏が大成建設の元名誉顧問・山内隆司氏に聞いた。
◆◆◆
罪を免れた大林と清水の幹部
山内隆司(79)にとってリニア中央新幹線の工事は、大成建設の事業のなかでもとりわけ感慨深い案件の一つに違いない。ときの首相だった安倍晋三と東海旅客鉄道(JR東海)元会長の葛西敬之が、ともに心血を注いだ国家プロジェクトである。
遅ればせながら私もさる10月30日、山梨県都留市にある実験線に乗ってみた。実験線はわずか1時間ほどの乗車だったが、第一段階の品川―名古屋間が完成すれば、86%がトンネルという暗闇を突っ走り、40分あまりで到着するという。
大阪までの全長438キロメートルの夢の超特急列車は、運営するJR東海が2015年8月以降、ゼネコン各社と工事の契約を結び、名古屋までの先行工事に着手している。建設工事は品川―名古屋間の22工区のうち、スーパーゼネコン4社がJV(共同企業体)を組んで全体の7割にあたる15工区を受注した。4社は、建築の得意な竹中工務店を除く、大成建設、鹿島建設、大林組、清水建設だ。
ところが、東京地検特捜部と公正取引委員会は、4社に対して談合による不正受注だとして摘発した。17年3月から公取委が調査をはじめ、この年の12月には、地検特捜部が本格捜査に乗り出す。スーパーゼネコン4社の本社を次々と家宅捜索し、リニア談合事件の幕が開いた。
このリニア談合事件に直面したのがほかでもない、当時大成建設会長だった山内である。
――家宅捜索を受けた2017年12月19日は、会社にいたのか。
「あのときはたまたま外出していました。たしか朝から取引先を訪ねていて、車に戻ると運転手が『会社から電話がありました。会社には戻って来ないように、とのことです』と告げる。いったいどうなっているのか、と思い、こっちから会社にかけ直したところ『地検特捜部の連中がやって来て、土木の担当者がヒアリングされています』と言うではないですか。そんなところへ私がのこのこと帰っても、ろくなことにはならない。私は事情がわからないので、検察に取り調べられても答えられません。会社としては、何も分かっていない山内が検察に引っ張られ(勾留)でもされたら大変だから帰って来るな、というわけです。新宿の『京王プラザホテルで時間をつぶしてください』と言われ、部屋をとってそのまま待機していました」
東京地検特捜部の捜査対象は、品川駅や名古屋駅近辺の建設工事、そして南アルプスのトンネル工事だった。大林組が名古屋城に近い名城非常口、清水建設がリニアの始発駅となる「品川駅北工区」、鹿島建設が「南アルプストンネル長野工区」、大成建設が「南アルプストンネル山梨工区」といった具合に建設工事を受注していた。
スーパーゼネコン4社が、3〜4件ずつ主要工事を請け負っている。特捜部と公取委は、互いに受注したい工事を譲り合い、不正な受注調整を繰り返してきた談合の疑いがあると見たわけだ。山内が言った。
「あの事件には参りました。大林組名古屋支店の土木担当者による捜査当局へのタレコミがことの始まりで、4社が次々と摘発されていったのですが、捜査への対応が真っ二つに分かれた。われわれは検察と闘いました。が、それでえらい目に遭いました」
