近隣住民の証言によれば、夜になると複数の男性が彼女の寝室の窓から忍び込んでいたという。父親は娘を「あらゆる誘惑にさらしていた」のだ。

やがてジュリアは妊娠する。相手は下宿人だったヘルマン・シリングという男性だった。これを知った父親エグナーは激怒。父親は娘を激しく殴打し、妊娠している身体を容赦なく蹴りつけた。

ジュリアは家から追い出され、病院に送られたが、そこで死亡した。その後、父親エグナーは、「娘を汚した男」としてシリングへの復讐を決意。共犯者とともにシリングを殺害し、その遺体を工場の炉に押し込んだ……父親の暴行が娘の死につながっているので異様に感じるかと思うが、これが事件の全容だった。

ADVERTISEMENT

いち早く、克明に事件の情報を報じたことで八雲の記者としての評価は上がった。しかし、八雲は、この記事を単なるセンセーショナルな事件報道では終わらせていない。記事の中で八雲はこう記している。

父親自身が彼女をあらゆる誘惑にさらしていたのだから、若さと軽率さと愛情深い性質のある少女が堕落したのも不思議ではない。
(It is not to be wondered at that the poor girl, thus exposed by her own father to every possible temptation, should in her youth and giddiness and affectionate disposition fall)

父親は、殺人犯としての罪のみならず、娘を搾取した父親としても非難されるべきである。
(the father is not less to blame than the real criminals)
(※日本語は、筆者が意訳したもの)

遊郭を完全に無視していたとは考えにくい

新聞記事でありながら、ここには明らかに八雲の怒りが滲み出ている。

殺人犯エグナーへの怒りではない。娘を酒場の客寄せに使い、性的に搾取しておきながら、妊娠させた相手を「娘を汚した男」として殺害した。その偽善と身勝手さへの怒りだ。そして、それを黙認していた社会への怒りである。