林氏が目にした「想像を絶する光景」

——内部の様子をうかがいましょう。

 いろいろ事情があって滞在時間は短かったのですが、主要な施設はほとんど見ました。寮、オフィス、スーパー、レストラン、そしてボスの別荘(笑)。あそこは福建幇(福建系マフィア)のシマだったみたいですが、すでに園区に入っていた人たちは逃げ出した後でした。スーパーの商品はほとんど持ち去られていましたよ。

詐欺従事者が逃げ出した順達園区で、詐欺師たちが読んでいた書籍やノート、謎の薬物などを手に取る林秉宥。本人のFacebookより。

 園区に住んでいる人たちのフードデリバリーのメニューも確認しました。チャーハンとか、ハンバーガーとか中華も洋食もあったのですが、おもしろいのが高額メニュー。野生のヘビとか、ワシとか。

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——ワシって。あの空を飛んでるワシですよね? まあ、鳥だから食べられるんでしょうけど。

 ですねえ。あと、熊の手の料理もありました。紅燒熊掌(熊の手の醤油煮込み)。聞いた話では、豚足に似ていて、脂がもっと多くて柔らかいそうです。

——彼らの寮の環境は?

 最底辺の人たちは10人1部屋、環境は当然劣悪です。彼らが逃げてからトイレの排水も停まったらしく、悪臭で入れないほどでした。この部屋もエアコンは一応ありますが、プリペイド式です。詐欺で稼いでチャージしなければエアコンは使えません。

下級の詐欺従事者が寝泊まりする、劣悪で悪臭にまみれた宿舎。林秉宥のFacebookより。

 いっぽう、中堅幹部は個室のワンルーム。幹部用の新しい部屋が建設途中で放棄されており、中国製の大量の便器が置いてありました。ボスのヴィラは同じ造りのものが3棟。広いリビングやダイニングがあり、誰かが住んでいた形跡がありました。注射器や薬物使用のための器具もありましたね。連中が使っていたんでしょう。

——絵に描いたような極悪環境ですね。林さんもご自身のフェイスブックで、日本のマンガの『カイジ』のセリフを引用して紹介されていましたが。

 そう。だって、園区内では「代用券」が使われていました。100代用券はタイバーツと等価(100バーツ、約500円)で運用されていたようです。園区の物資はすべてタイ側から来るので、バーツ計算が都合がいいんです。一部の会社(=詐欺集団)は、この代用券をボーナスとして支給していました。

——完全に『カイジ』シリーズに出てくる地下労働施設の代用貨幣「ペリカ」だ。

 はい。考えてみると合理的なんです。園区内に多額の現金(本物)を置くと、反乱を起こされて奪われるリスクがある。

順達園区で使われていた代用券の実物。漫画のペリカとは違い、その正体は中国国内の練功券(銀行員などが紙幣を数える練習に使う紙)の流用。リアルカイジは夢がない。

 管理は厳しかったようです。他社(=他の詐欺拠点や他の園区)の人間と交流禁止、会社の批判禁止という規則があり、見つかれば罰金です。園区内は至る所に監視カメラがあります。壁は非常に高く、すべて鉄条網付き。銃を持った兵士がいたであろう監視所も無数にあり、脱走はまず不可能ですし……。そもそも、逃げ出しても意味がありません。

 外はミャンマーの荒野で、いたる所に軍閥の検問所があります。逃げる方法は、他の軍閥が攻め込んできたときに混乱に紛れて脱出して、なんとかタイ側に渡って保護してもらうくらいしかないんです。

次の記事に続く 「中国国内の勢力がバックにいる」東南アジアの辺境にある“ナゾの特殊詐欺拠点”…その隠れた目的は「詐欺」ではなく「身代金ビジネス」だった