「君、将来出世するよ」 ある日突然、清掃員→外資系証券マンに

 清掃をしていると、カナダ人の営業幹部がしょっちゅう私に声をかけてくれましてね。

「へーい、シャッチョー!」

 馬鹿にしているのか? と思いましたが、私も調子がいいものですから、向こうが「社長」と呼んできたので、こちらは「会長!」と呼んで、「会長! 今朝も会長のために便器をピッカピカに磨いておきました。どうぞ、用を足してください」というわけです。

ADVERTISEMENT

 次は手を洗いますね。その際にペーパータオルを三角に折って、信長と秀吉の草履持ちの話ではありませんが、懐にあたためておいて「ははーっ」と仰々しく、時代劇風のコント仕立てでお渡ししていたんです。そしたらそれも大ウケ、大爆笑でした。

ビルの清掃員から、ある日突然外資系証券マンに ©GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

 その翌日もあの大きな瞳で「また、あれやって、ははー、やって」なんて言うもんですから調子に乗ってリクエストに応えていたんです。彼も毎朝同じネタの同じコントで大爆笑。今考えれば、非常に笑いのツボの浅い方でした。

 そんなことが続いたある日「ところで君、なんでこんな仕事してるの?」というので「かくかくしかじかで派遣で働いています」なんて話をしたら、突然その方が「君、将来出世するよ! うちで使ってやるよ」そう言われたんですね。それまで私は株とか、為替とか、債券とか、金融経済についてなんの知識も関心もありませんでしたが、これは千載一遇のチャンスだと思いました。

 すぐに試験を受けさせてもらって、なんとか無事「じゃー使ってやる」ということになり、入社できたんです。ただ、いきなり外資の株の営業なんてできませんから、最初は株式調査部というところに行って勉強することになりまして、そこで本当にいろいろなことを学びました。私は組織の末端のさらに末端と言える、雑用係といってはまだ高尚な、本当にアルバイトに毛が生えたような地位で働くことになりました。おおよそ皆さんが想像するようなキラキラした外資系証券マンとはまったく違いましたね。

 たとえば「資料をつくって」と言われたら、皆さんだったらエクセルやパワポを駆使してつくるイメージを想像されるかもしれません。でも、そんな仕事は夢のまた夢。私に与えられた資料づくりとは、先輩アナリストが作成した分厚い資料をまっすぐホチキス止めするという作業でした。