西村 それは強いと思います。先ほども言ったように、世間一般には「依存症になったのは意思が弱いから」という誤認があります。すると、病気の本人はますます「自分がしっかりしなきゃ」と自責に陥るんです。ところが、問題は本人が置かれている環境のほうにありますから……。社会の認識が変わってほしいものですね。依存症は、意思の力でどうにかできるような甘い世界ではないんです。
人生をうまく再構築できるか否かは「運ですね」
――環境が問題の大きな一因であることが伝わる事例はありますか。
西村 ありますね。まだ18歳の女性の話です。その子は窃盗などで少年鑑別所や留置所を経験していました。シングルマザーの家庭で育ってきたのですが、母親とその彼氏からDVを受けるなどの経験があり、児童相談所にも入所していたそうです。
母親自身も精神的に危ういところがあり、彼女の貯めたお金を使い込むなどの盗癖もありました。彼女は未成年時から自活するため北関東の寮つきデリヘルで働いていたようです。そして成人後に歌舞伎町に出てきてから窃盗事件を起こして保護観察処分になりました。市販薬に依存していたのです。
しばらくは私が診察をして状況は落ち着いていたのですが、その後、また北関東のデリヘルで働くといって診察に来なくなってしまいました。似た境遇でお酒や薬に溺れてしまう患者さんは少なくないです。
彼女が依存症になってしまったのは当人の意思の問題でしょうか?
――決して意思に還元できる問題ではありませんね。一方、治療にかかって、状況を好転させられることもあるのでしょうか。
西村 ありますよ。高校時代に母親から包丁を突きつけられるなどの経験をして児相預かりとなり、それから生活保護を受給しつつグループホームに身を寄せるなどしていた女性がいましたが、治療を継続し、生活を立て直せて今は大学生になっています。
――人生をうまく再構築できるか否か、これを分かつものは何だと思いますか。
西村 運でしょうね。
その人が、どのような人とつながって、どんな支援を受けることができるか。こればかりは残酷ですが、運だとしかいいようがありません。決して本人の努力だけでどうにかなる問題ではありません。
医師を悩ませる「招かれざる患者」の存在
――精神科にかかる患者さんのなかには、受診ではなく薬を求める人も少なくないと聞いたことがあります。そうした患者さんに対してどのようにお考えでしょうか。
