西村 適切な用法用量を守るのであれば、治るために薬を必要とすることは悪いことではありません。ただ、”薬ほしさ”の魂胆が治療目的ではない「招かれざる患者」がごく稀にいることは事実です。

 たとえば先日、私のクリニックを訪れた患者さんのなかに、他院でも睡眠薬を処方してもらっていた人がいることを行政からの通達で知りました。資料によれば、他院30ヶ所回っていたようです。私はこの患者さんに3ヶ月間、睡眠薬の一種であるマイスリー(ゾルピデム酒石酸塩)を処方していました。一か月間の処方上限は30錠なので3ヶ月で90錠ですが、他院30か所で同量もらっていたと仮定すれば、2700錠です。とても個人が使用する量ではありません。

 

――その人は処方してもらった薬をどうしているのでしょうか。

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西村 それはわかりません。ただ推察するに、転売ではないでしょうか。薬を購入したくてもできない人たちに売ることで、利益を上げている可能性はあります。したがって、そうした人たちにとって来院は診察が目的ではなく、“仕入れ”ですよね。こうした事実は非常に闇が深いと感じます。

患者のために処方した薬が裏で売買されている?

――治療目的ではなく、薬を求める人達を医師は見抜けないのでしょうか。

西村 そこが彼らも巧妙なんです。例えば、初診で私のクリニックに来た時、わざわざ「お薬手帳」を持ってきて、「前のクリニックではこの薬が出ていました」と説明してくれて。

 見ると確かにマイスリーが処方されている。「職場がこっちに変わったので、これからは先生のところに通いたい」なんて、もっともらしいことを言うわけです。医師としても、紹介状はないけれど、お薬手帳という証拠があるし、急に薬を切るわけにもいかないから「じゃあ同じものを出しておきましょう」となる。

――なるほど。お薬手帳を「信頼させる道具」として使って、薬を仕入れているんですね。

西村 おっしゃる通りです。過去に診た例だと生活保護受給者が手に入れた薬を転売していたケースがあります。そして実際にはこちらのケースが大半なのですが、何の仕事をやっているのかはっきりしないような方、過去の通院歴も明確でないような方が、初診時から依存性の高い薬を要求してくることがよくあります。そのような場合、私は当然お断りしていますが、中には安易に処方する医師もいるようです。そして、それらの薬が転売された場合、買った人がオーバードーズで倒れたり、犯罪に巻き込まれたりすることもあるでしょう。

 医師として、目の前の患者さんを救いたいと思って処方した薬が、巡り巡って誰かを傷つけたり、犯罪の資金源になっているかもしれないと思うと、そうした現実は、本当にやるせないですね。

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