一部の健康な人たちは、コロナウイルスが自分にとってさほど大きな脅威ではないと確信しているが、ワクチンには何らかの副作用があるのではないかと心配している人たちにとって、このシェディングというでっち上げられた脅威が、ワクチン推進派に反撃する格好の手段となったのだ。

「グローイング・ママ」〔グローイングは「熱く輝く」の意〕と名乗る、トロント在住の有名なフィットネストレーナーで反ワクチンインフルエンサーを例にとってみよう。彼女がワクチンのシェディング説に取りつかれたのは、自分の周りの人たちがワクチンを接種したために「生理と生理の間に出血する」ようになったからだという。

 ネットで急速に広まった動画のなかで、グローイング・ママは涙ながらに、自分の娘を、祖父母にあたる両親(ワクチン接種済み)が抱こうとしたことに怒りをぶつけている。両親は自分たちが娘や孫娘にとってどんなに危険な存在なのか、まったく気にしていないと。「彼らはひとつの世代を丸ごと不妊にしようとしている」と彼女は泣きながら訴える。この「片足を棺桶に突っ込んだ」老人たちは身勝手にもワクチンを接種し、それにもかかわらず孫娘と愛情のある関係をもてると考えている。その身勝手さはとうてい信じがたいというのである。

ADVERTISEMENT

 バカバカしいにもほどがある。ワクチンと不妊の間には何の関係もないし、ワクチンがハグした相手に「排出」されることもない。それを証明する資料は数多くあり、簡単に手に入る。だがこうした動きのなかで、シェディング説――わがドッペルゲンガーはその拡散に大いに貢献した――の訴求力が、自らの弱点の投影と義務の免除のための究極的なツールであることがあらわになったのだ。

 ウルフやその信奉者たちは、ワクチン接種を支持する論拠――私たちの暮らす社会ではお互いの体同士が網の目のように絡み合っているため、自分の体に何をするか、何をしないかは他の人たち、とくに体の弱い人たちの健康に影響を及ぼす――を逆さまにひっくり返している。ワクチンを打った人たちこそ自分勝手であり、弱者を犠牲にしている、シェディングによってワクチンをばらまき、拡散しているのだと。

 これら一連のことが、私と彼女が混同されるリスクを著しく高めたように思えたし、混同される回数も激増した。数カ月に1回などというレベルではなく、コロナ禍の最初の1年間は、まさに毎日ひっきりなしだった。そんなわけで数カ月後には、反撃しないわけにはいかないと自分に言い聞かせたのだ。

画像はイメージ ©AFLO

「あのナオミではありません」

 まずSNSのプロフィール欄に「あのナオミではありません」と短く書き加え、彼女がFOXニュースのあちこちの番組で、コロナ対策を講じている政府は「独裁的な専制君主」だと言いふらしはじめた2021年2月には、「定期的なご注意ですが、2人のナオミを区別するようにお願いします」とツイートした。彼女のTwitterのアカウントが凍結(おそらく永久に)されたときには、「悲しいかな、私はまだここにいます」とツイートした。この2つのツイートには、最後にチェックした時点で「いいね」が2万もついた。

 なぜかといえば、パンデミック初期の極度の孤立と不安のただなかにあって、2人のナオミの混同は左派Twitter界のお気に入りのジョークのひとつになっていたからだ。インターネットの集団意識は、もう1人のナオミのとんでもない発言を笑って楽しんでいただけではなく、世間が少なくともその責任の一部は私にもあるとみるのを見込んでは、同じように喜んでいたのだ(「ナオミ・クラインに、心よりの同情と祈りを」)。

 コンピュータが放出するドーパミンに中毒になった退屈しきった人びとにとって、私たちは絶好の娯楽の対象だった。人びとがそこで得ていたのは真の意味の快楽ではなく、それにきわめて近いもの――あの孤独で不安に満ちた日々における紛いものの共同体験だった。

Copyright: DOPPELGANGER
 © 2023 by Naomi Klein

最初から記事を読む 「彼女なんにもわかってない」公衆トイレの個室にいたら、女性2人の話し声が聞こえてきて…超有名フェミニストを突如襲った“理不尽な勘違い”