日本選手を勇気づけたアメリカ戦での先頭打者ホームラン

「ピービーの2球目、外に決まったストライク。あのコースでは無理でしたが、内側に入ってきたら狙ってやろうと思っていました」

 3球目、イチローの思惑通り、内側に来たボールを完璧に捉えての、先頭打者ホームラン。アメリカのエース、パドレスのジェイク・ピービーから放ったこの一本は、ジャパンの選手たちを間違いなく、勇気づけた。

「アメリカに来て僕の動きは本来に近くなりましたけど、日本でやっているときには、みんなの中にもイチローはどうなのかなぁっていうのがあったと思うんです。でもあのホームランで、アメリカでの僕はやるんだと感じてくれた人がいたと思う。それがチームに行けるという気持ちを生み出してくれるものだと僕は信じていたので、あのホームランはメチャメチャ気持ちよかったし、大きな一本でした。それだけ背負ってるものがありましたから……」

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 結局は理解不能な判定の挙げ句、アメリカにサヨナラ負けを喫した試合後。イチローは選手たちの変化を肌で感じ取っていた。

「みんな、やれたはずだと感じていました。背中が違って見えましたから。最初に3点取ってイケるかもしれないという自信が湧いてくると、こんなに変わるものかと思うくらい、チームは変わっていった。あれだけのメンバーを揃えたアメリカに勝つことはものすごく大きなことなんです。それこそ、歴史の一歩ですよ。

 メジャーリーグという最高の舞台に憧れ続けて、とてもかなわないと思っていた相手と戦えた……あの試合は負けてしまったけど、アメリカとあれだけのゲームをやれたことが、その後の僕らのゲームの礎を作ってくれたんだと思います」

©文藝春秋

 イチローはこの大会中、感情の赴くままに喜怒哀楽を表現した。チームを鼓舞するために、理性を解き放ち、本能に任せた結果だった。その姿に驚いた周囲は、そんな感情的な姿を“イチローの変貌”と表現した。

「変わったんじゃなくて、表現するようになった、ってことです。内側に持っているものをマリナーズのユニフォームを着ているときは抑えられたけど、ジャパンのユニフォームでは抑えられなかった。なにしろ、王監督に恥をかかせられないとまで言ってしまいましたから(笑)。重荷を背負おうとする自分がいたのは、自分に自信があるからでしょ。自分の内面を出していくって、そういうことだと思います。

 自分のことを隠そうとしたり、本当のことを言われたときにそれを否定したくなる気持ちっていうのは、自信のなさの表れでしょう。本当の自分を出していいと思えるのは、恐らくイチローという選手を上回る鈴木一朗が、それだけの自信を持っていたからじゃないでしょうか」

次の記事に続く 「世界の王選手を世界の王監督にしたかった」日本が第1回WBCを制覇した瞬間、イチローの目に焼き付いた“歓喜の光景”

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