エメラルド・フェネル監督版『嵐が丘』の改変は、設定の省略に留まらない。原作では名門の地主だったリントン家が「成り上がり」の実業家に変貌し、彼の実妹であるイザベラの設定も、物語の語り手であるネリーの出自も劇的に変わった。原作の翻訳家・鴻巣友季子氏による解説の後編では、これらのマイナーチェンジがどのように作品の根幹を揺さぶり、古典に新たな息吹を吹き込んだのかを解き明かす。(*映画のセリフ部分は字幕の直接引用ではなく、筆者が大意をとって訳したもの。また原作からの引用はすべて鴻巣訳。)全2回の2回目/最初から読む
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変更点その3 エドガー・リントンは成り上がり
映画にはさっそく序盤に、原作にはない人物設定と場面が導入されている。ちなみにこの設定は先行するアンドレア・アーノルド監督の『ワザリング・ハイツ 嵐が丘』(2011年)でも少し取り入れられている。フェネル監督は古典文学や先行する映画への目配せをちりばめているようだ。
あるとき、アーンショウ家の隣の地所を買って引っ越してくる者があり、騒然となる。高地の荒野に建つ「嵐が丘」宅から4マイルほど離れた緑豊かな平地の「鶫の辻」邸(スラッシュクロス・グレインジ)にやってきたのは、エドガー・リントン(シャザド・ラティフ)と、彼が後見人を務める未婚女性イザベラ(アリソン・オリヴァー)である。原作では、エドガーと出会ったときキャサリンは15歳、エドガーはたった3歳上だが、映画では髪に白いものが混じっているので、40代だろうか? キャサリン(マーゴット・ロビー)も20代後半に見えるので、そんなに不釣り合いではない。
キャサリンは豪華な馬車列を見て、色めき立って言う。「男性で、独身なんですって!」「見て、お金持ちに違いないわ!」

