『カミング・ホーム』
異星人とのコミュニケーションの醸成を感動的に描く映画が二つ、期せずして同日に日本で公開されることになった。そのうちの一本『プロジェクト・ヘイル・メアリー』も素晴らしいのだが、ここで紹介するのはもう一本の方。予算はおそらく『プロジェクト~』より桁が2どころか3つ違うかもしれない、低予算作品だ。が、作品の力は決して劣っていない。
舞台はペンシルベニア州のとある田舎町。一人暮らしの老人男性の家の庭先に小型のUFOが墜落するところから、物語は始まる。中には子どものような宇宙人がおり、UFOが故障しているため飛び立つことができない。見かねた老人は家に彼を招き入れる。そして、二人の奇妙な共同生活が始まる。
宇宙人は言葉を話すことができない。それでも、老人は宇宙人に話しかけ続ける。孤独な老人にとって、それはかけがえのない時間になっていた。やがて、似た境遇の二人の高齢女性も宇宙人の存在を知るようになり、四人は互いの孤独を癒し合うかのように過ごしていく。
何か大きな事件が起きたり、盛り上がる展開が待ち受けているわけではない。淡々と、ひたすら牧歌的に話は進んでいく。宇宙人も全身が『犬神家の一族』のスケキヨのような真っ白な風体で、パッと見の可愛げはないし、ずっと無表情だ。映画として引きになる要素は、表向きはほとんどない。
だが、彼らを包み込む空間の温かさや、老人たちの想いを受け止めているうちに無表情なだけの宇宙人の表情に熱い感情が流れているように見える巧みな演出――そうした丁寧に紡がれた一つ一つの描写が見事に絡み合い、最後まで全く飽きさせない。
主人公を演じるのは、ベン・キングズレー。認知症の初期症状に苦しみ、子どもたちとの関係性に葛藤し、やがて近づく死への実感と静かに対峙する。そんな老人像を繊細に演じており、アカデミー賞俳優としての実力がいささかも落ちていないことを確認できたのも嬉しかった。
『カミング・ホーム』
監督:マーク・タートルトーブ/出演:ベン・キングズレー、ハリエット・サンソム・ハリス、ゾーイ・ウィンターズ/2023年/アメリカ/87分/© 2022 Apple Slice Productions LLC All Rights Reserved./3/20(金)よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
