『そして彼女たちは』
3本目も繊細な作品だ。
ダルデンヌ兄弟の新作の舞台は、若年で妊娠した女性たちの支援施設。ここで共同生活する5人の少女たちの姿が描かれる。
彼女たちは貧困やパートナーの身勝手や家族の問題などの事情で、それぞれ子どもを育てることに困難を抱えていた。各人ともに自身の置かれた状況に苦しみ、苛立ち、怒り――あまりにつらい現実が、ひたすら映し出されていく。
ただ、ネガティブなだけでは終わらない。彼女たちは時おり助け合い、寄り添い合いながら、現実に立ち向かう。その際の描写が良い。ことさらにウェットに強調されておらず、日常の中でさりげなく描かれている。そのことが、「彼女たちにとってそれは特別なことではなく、当然のこと」として伝わる結果となり、それぞれの思いやりや連帯感はかえって強く受け止めることができた。
もう一つ特筆すべきは、その語り口だ。この施設の概要も、彼女たちの状況も、セリフであえて説明されることはない。開始時点から、現在進行形で彼女たちのリアルな日常の様子が流れていく。にもかかわらず、観ているうちに全て完全に理解できてしまうのである。見事な構成の技巧といえる。これが奏功し、序盤から作り手の作為性を忘れさせてくれる。その結果、ドキュメンタリータッチの映像とあいまって、目の前で繰り広げられる彼女たちの闘いが、本当に現実に起きていることかのように生々しく伝わってくることになった。
そうした現実味をもたらす上で効いているのが、人物配置だ。五人の物語はそれぞれ錯綜しながら進んでいく。その際、「ここからはこの人のエピソードになります」という説明的なカットが挟まることはない。この編集も、ドキュメント感をもたらす上で重要な役割を果たしている。
素晴らしいのは、それでいて「あれ、今やっているのは誰のエピソード?」という混乱が起きていないことだ。それは、彼女たちの抱えている事情だけでなく、人種や年齢にも幅をもたせているからというのもあるだろう。こうした人物構成にすることで、「さまざまな女性たちが大変な目に遭っている」という多様性を表現すると同時に、映像的にも観客が「今ここに映っているのは誰のエピソードなのか」と瞬時に判断できる効果をもたらしているのだ。
映像自体は流れるように過ぎていく。それでいて、ちゃんと伝えるべきことを伝えられているのは、それだけの緻密な技巧が仕掛けられているからだ。名匠の名匠たるところだ。
『そして彼女たちは』
監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ/出演:バベット・ヴェルベーク、エルザ・ウーベン、ジャナイナ・アロワ・フォカン、リュシー・ラリュエル、サミア・イルミ/2025年/ベルギー=フランス/104分/配給:ビターズ・エンド/©Les Films du Fleuve - Archipel 35 - The Reunion - France 2 Cinéma - Be Tv & Orange - Proximus - RTBF (Télévision belge) / Photo©Christine Plenus/3月27日(金)より、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
