台湾の書店を歩くと、意外な光景に出くわす。「中国脅威論」を煽る本は、ほとんどが日本語からの翻訳書だという。台湾を取材してきたルポライターの安田峰俊氏は、この現象に警鐘を鳴らす。「日本の商業的で扇動的な反中言説が台湾に輸入され、結果として台湾世論が煽られている側面があります」。台湾の出版事情から見えてきた、日台関係の歪みとは。(全2回の2回目/はじめから読む)
(初出:「文藝春秋PLUS」2026年2月24日配信)
台湾人は反中本をあまり書かない
文藝春秋PLUSの番組「速報解説!ニュースの論点」で、安田氏は台湾の書店事情について興味深い分析を披露した。
「私は台湾へ行くと、必ず大きな書店に立ち寄ります。今回は台北ブックフェアにも足を運びました」
日本の書店では、時事本コーナーに習近平の顔を見ない日はない。習近平がいかに権力を広げようとしているのか、いかめしい内容の本が並ぶ。ところが台湾の書店は違う。
「意外に思われるかもしれませんが、台湾の書店には、そういった反中本はほとんど見当たりません」
安田氏によれば、「やがて中国との戦争が始まる」といった本もほぼない。反中本のコーナーがあっても、「それらのほとんどが日本の書籍の翻訳版」だという。
「台湾人自身が中国の脅威を煽るような本を書くことは、(後述する一部を除いて)あまりありません」
「中国大陸とビジネスをしている」
なぜ台湾人は「中国脅威論」を書かないのか。安田氏は複数の理由を挙げる。
「そもそも台湾の人々は、中国と戦いたいとも、有事が起きることを煽られたいとも思っていません。自分たちの国のことですから、当然です」
さらにリアルな理由として、「かなりの数の人々が中国大陸とビジネスをしている」という事実がある。
「台湾では、ジャーナリストや出版関係者も、親戚など身近な誰かしらが中国とビジネス上のつながりを持っているケースも多い。気を使うので、そう過激なことは言わない人も多い。これは政治的な理由というより、そうした背景への配慮です」
例外的に反中本を出しているのは「大塊文化」という出版社だが、ここは「少し尖った総合出版社」で、BL本や吉田戦車の翻訳漫画も出しているという。
