広里 しじみについては、特に取材時間を割きました。しじみの大きさや食べ方などについてうかがった、地元の皆さんのお話が貴重な資料になっています。『ばけばけ』で使用したしじみは全て松江に隣接する宍道湖から取り寄せていて、これは漁業組合さんのご協力なくしては実現できなかったことです。本当に感謝しています。
朝ドラの撮影って、多少ロケはありますけど、やっぱり大阪のスタジオでの撮影が中心になるんですね。そうするとなかなか「舞台となった土地の味」が伝わりにくい。なので、可能な限り現地から取り寄せた食材を使って、視聴者の皆さんと、役を演じる俳優の皆さんに少しでも松江の空気を感じてもらえるようにしたいという思いが強くありました。
――しじみのほかに、松江で取材されて印象に残った食材、ドラマに取り入れた食材を教えてください。
広里 板若布や、松江の伝統野菜・津田かぶはシーンに出すことができてよかったです。劇中で、しじみ汁に使っている味噌、煮物に使っている醤油は松江から取り寄せたものです。日本酒に梅干しを加えて煮詰めた「煎り酒」も当時松江でよく使われていたもので、これもドラマ内で出した料理の調味料として使っています。
しじみ・鰻・スズキ・モロゲエビ・アマサギ(ワカサギ)・鯉、白魚で「宍道湖七珍」と呼ばれる魚介類が名産で、しじみ以外にもこの中からなるべくたくさん出したかったんですが、なかなかシーンの設定と季節が合わなかったりして、十分に叶わなかったのが心残りです。
明治時代に松江で「一般的」だったしじみの大きさは?
――松江は宍道湖だけでなく日本海にも面していて、海の幸が豊かなんだろうなというのがドラマを観ていて伝わりました。
広里 ヘブンさんが骨を取るのに苦戦していたり、タエさん(北川景子)が三之丞くん(板垣李光人)とトキちゃんのために作った昼ごはんで登場したノドグロも松江の名産です。今では高級魚として知られるノドグロですが、昔は「下魚」と呼ばれて、庶民が普段使いする魚だったんですよ。
特にインパクトがあったのが、お祝いの席で出される「奉書焼き」という郷土料理。尾頭付きの鯛やスズキを濡らした和紙に包んで蒸し焼きにしたもので、江戸時代から伝わる料理なのですが、現在でも松江の旅館や料理屋さんで出されています。『ばけばけ』ではトキちゃんとヘブンさんの結婚パーティーのほか、3回ほど登場しています。
――ドラマに登場した宍道湖産のしじみ、粒がとても大きいですよね。あのふっくらとした身が印象的でした。
広里 取材させていただいた松江の方々と相談して、『ばけばけ』で使うのは「どの大きさがいちばんいいか」をまず決めたんです。ドラマではLサイズを使うことにしました。それよりもっと大きな「2L」「3L」というものもあるんですが、明治の時代に松江で「一般的なしじみ」とされていた大きさと、お椀とのバランスも考慮して「L」にしました。
松野家は武家なので、貧窮した時代でも「四つ椀」と呼ばれる本膳で使われる塗りのお椀を使っていました。この小ぶりなお椀に入れるしじみ汁ならLサイズがちょうどいいだろうと。






