トキはいつも優しい「嘘」をまとって生きている

 そのとき、トキの父・司之介や母のフミ、祖父の勘右衛門は、そんなトキの決意を知らず、いつものように食事を共にし、たまたまくしゃみが伝染していき、その偶然に無邪気にはしゃぐ。いつもなら、こんなとき、トキにもくしゃみが伝染するのかもしれないが、トキはそれを見て、無理をして高笑いをする。この家族の中でひとり、心を殺して大人になろうと決意している心の変化が見て取れて、胸がぎゅっとなってしまった。明日から自分は女中として、異国から来た男性の“昼と夜の世話”をしないといけない。それは家族には絶対に言うことはできない。だからこそ、何もなかったように、家族と一緒に無理して笑うのである。

 このシーンについて、実際に髙石あかりさんにインタビューをした際、彼女は「最後に家族としじみ汁を飲むんだと思いながら演じてくださいと言われました。もちろん、その後も家族で過ごす時間はあるんですけど、それ以降の自分はそれまでの自分とは違うから、この楽しい空気をひとつも取りこぼさないようにしたいと考えて、トキもわざと高笑いをしてしまうというシーンになっています」と語っている(※1)。

女中になる覚悟を決めたトキ 『ばけばけ』公式Instagramより

 このように、トキはいつも「嘘」をまとって生きているようなところがある。このドラマの中での「嘘」はいつでも、優しさなのである。その優しい嘘、つまり優しさゆえの建て前に気付いていくことが、ヘブンが日本を知ることになっていくという物語でもある。考えてみれば、彼が関心を持って執筆する「怪談」も、誰かの身に起こった悲しい出来事を、嘘を交えて広く伝承するという性質があるといえる。

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想いが通じ合ったトキとヘブン 『ばけばけ』公式Instagramより

 ただ、この物語が「嘘」のやさしさを描いているからこそ、トキが感じたものを、嘘偽りなく溢れさせたときに、視聴者は心をより動かされることになる。そして、その中でも、女中として“昼と夜の世話”をすることを嫌がっていたおトキと、彼女のことをなんとも思っていなかったヘブンが、次第に惹かれあっていく過程には嘘がない。