サウジアラビアなら帰れるかもしれない

 その頃になると、中東諸国でもUAEやサウジアラビアの空港では、足止めされた客を帰国させるための限定便の発着が始まっていた。ただ、依然としてドーハ・ハマド国際空港は軍による管理下に置かれ、閉鎖されている。

 3月5日朝9時、世界中で止まっていたカタール航空が、サウジアラビアのリヤド~ドイツのフランクフルト便から運航を再開すると発表した。ドーハからは、車で10時間かかるマスカットより、6時間で行けるリヤドの方が近い。いざサウジ経由で帰国するとなったらビザ申請に時間がかかるかもしれないと思い、オンラインでサウジアラビアのeVisaを申請することにした。

攻撃開始前に撮影したドーハ・ハマド国際空港 ©文藝春秋

大使館から届いた【緊急】のメール

 この日の12時過ぎ、再び爆音が鳴り響く。耳元で爆破しているかのような大きな音で、部屋では窓がキシキシと揺れていた。「Al Jazeera」を見ると、ドーハで、イランからのミサイルの迎撃に成功したという。晴天に広がる雲の跡。美しい青空をこんなにも憎んだのは、後にも先にも今回だけだろう。

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ドーハで迎撃されたミサイル ©時事通信社

 この状況では、いつ別の場所に退避することになるか分からない。食べられるときに食べておこうとレストランに入ったところで、「【緊急】」と件名に記されたメールを受信した。在カタール日本国大使館から、「たびレジ」登録者に向け、カタールからリヤドまでの「退避バス」の乗車希望を聞くアンケートだった。先着順の可能性もあると考えるとつい焦って、回答を入力する手が震えてしまった。果たして退避バスに乗ることができるのか。その不安であれこれ考えていたら、この日の昼食は味がしなかった。

 メールには、リヤドまでの陸路のバスは12時間と書かれていた。食糧を持参するよう記載されていたため、デリバリーで食パン、「オレオ」、クッキー、チューインガム、ティッシュ、簡易トイレをオーダーした。

 デリバリーは、同様に足止めされた日本人によるLINEグループ「カタール脱出!!」でオススメされた「Snoonu」というデリバリーアプリを使用した。

とてもお世話になったデリバリーアプリ「Snoonu」

 18時半、今度はリヤド発の政府チャーター機の搭乗希望アンケートがメールで届く。「バスに続き、チャーター機にも乗れますように」と願いを込めて、アンケートを送信した。

 デリバリーが届いたのは21時過ぎ。その受け取りにロビーに行くと、6日前に空港で預けたままだったスーツケースが、やっとフロント前に届いているのを見つけた。

 スーツケースを開けて、荷物が届いたことの幸せを噛みしめながら眠りに落ちると、まだ陽が昇る前の3時45分、危険を知らせるアラート音で叩き起こされる。4時過ぎにアラート解除のメッセージが来るのを待って、再び眠りに落ちた。

デリバリーアプリで頼んだ非常食 ©文藝春秋

イラン大統領が謝罪した数十分後、再び爆撃音

 翌3月6日、19時頃に夕食を食べていると、リヤドまでのバスに乗れること、そしてリヤド~成田のチャーター機に搭乗できることが、メールで通知された。やっと具体的に帰国の可能性が見えてきて嬉しかったが、肝心のバスや飛行機の出発日時が分からない。まずは、早めに就寝することにした。

 22時半、政府から再びメールが届く。なんと翌朝、たった8時間後の7日の6時半に在カタール大使館近くへ集合とのこと。びっくりして飛び起きて、集合場所までのタクシーをUber(タクシー配車アプリ)で手配し、リヤドで宿泊するホテルも予約する。

カタールでアメリカのレーダーシステムが破壊されたというCNNニュース(3月6日10時頃)

 4時にアラームをかけて部屋の電気を消すと、24時半になって、在カタール大使館からバスの集合日時が1日間違えており、翌8日の朝であると訂正メールが届く。ガッカリしながらタクシーとホテルをキャンセルして、就寝する。

 ドーハ滞在残り1日となった翌7日も生きた心地はしなかった。10時ごろ、イランのマスード・ペゼシュキアン大統領が湾岸諸国など周辺国を攻撃したことについて謝罪し、今後は先に攻撃されない限り、攻撃しないことを発表。BBCニュースを見て喜んだのも束の間、そのニュースの数十分後に、再び爆撃音が聞こえた。ドーハで攻撃が収まる気配はなかった。