17時、砂漠に沈みゆく夕陽が窓の外に見えた。バスが走る高速道路のレーンだけは舗装されているものの、すぐ道路沿いには3メートルほどの高さの砂の丘があり、その先はどこまでも砂丘が広がっている。こんな状況ではあるが、地球はこんなにも美しいのだと、私は静かに感動していた。

砂漠に沈みゆく太陽 ©文藝春秋

 20時半、ずっと砂漠を走っていたバスが、スーパーやガソリンスタンドが数軒集まった集落に着き、目が覚めた。トイレを探すが、男性用しか見当たらない。ヒジャブを被った女性を見つけ、細くて暗い道を付いていくと、ようやく女性用トイレがあった。サウジアラビアは厳格なスンニ派のイスラム教徒が多い。灰色の薄汚い野犬が吠えている横を通り、バスの席に戻ると、異様なテンションの現地の男性が勝手にバスに乗り込んできた。

「Japonais(ジャポネ)?」

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 職員の方が丁寧に声がけし、バスから降りるように頼んでいた。後で聞くと、ちょうど今日のお祈りが終わり、12時間絶食するラマダン期間の貴重な夕飯を食べ終わった時間帯。珍しい外国人を見つけてテンションが上がってしまったらしい。

トイレ休憩をした広場には、お店やガソリンスタンドが並ぶ ©文藝春秋

 ドーハの在カタール大使館を出発してから14時間、22時半にリヤドの大きなホテルに到着。在サウジアラビア日本国大使館の職員が誘導し、2階の小会議室に集められた。不安でいっぱいだった陸路の旅を終えて一安心していたが、職員の説明を聞きながら、まだこれから飛行機での移動が残っているという現実を突きつけられる。

フライトまでの時間を過ごすホテルの小会議室 ©文藝春秋

 会議室には簡単な食べ物や、ユニ・チャームが提供してくれたオムツやティッシュ、生理用品などが用意されていたほか、体調が優れない人は医務官の診察を受けることもできた。職員から翌日の説明を受けたのち、各自で周辺のホテルを手配するか、会議室で雑魚寝をするかを選ぶことになった。私は少しでも長旅の疲れを残さないように、予約していたホテルで僅かな時間ながら休息をとった。

政府のバスで到着した一時待機所のホテル ©文藝春秋

中東脱出へ

 3月9日、朝7時半にホテルのロビーで集合し、バスでリヤドのキング・ハーリド国際空港を目指す。車窓からは、洗練された建物や建設中のメトロなど、急速に発展を遂げている街の姿を垣間見ることができた。空港に近づくと、テーマパークの建設地のような場所が見えた。「EXPO 2030 Riyadh」の看板があった。4年後にリヤド万博があるらしい。1時間ほどで空港に到着した。

大掛かりなリヤドの工事現場 ©文藝春秋

 13時半、政府がチャーターしたエチオピア航空の機体が離陸した。ほぼ満席。281名の乗客は、日本に帰れる喜びで顔をほころばせている。普段なら離陸前に寝てしまう私も、フライトマップが気になって仕方がない。サウジアラビアを抜け、オマーンを抜け、インド上空に辿り着いた時、ようやく中東を脱出できたことを実感できて、胸をなでおろした。

初めて乗るエチオピア航空の機体 ©文藝春秋

 機内を見渡すと、バスで知り合った顔も多い。始終日本語が飛び交う機内に、すでに日本に着いたような安心感が広がっていた。約10時間のフライトを終え、日本時間3月10日の朝6時半、成田空港第1ターミナルに着陸した。旅行者である私たちのために奔走してくれたカタール、サウジアラビアの大使館の方々、外務省の職員や自衛隊員、エチオピア航空のスタッフなど、本当に大勢の方に支えられて、無事に帰国することができた。中でも感謝を伝えたいのは、ドーハで同じホテルに宿泊していた日本人女性2人組だ。帰国の目処が立たず落ち込む私を、明るく励ましてくれた。2人がいなければ、長く辛い10日間を乗り越えられなかっただろう。

 入国ゲートを抜けると、出迎えの集団の奥に、家族の顔が見えた。第1弾の記事を読んでくれた職場の同僚からも「おかえり」というメッセージがたくさん届いた。

楽しげに日本語が飛び交う機内 ©文藝春秋

いつどこで戦争が始まるかなんて、誰にも分からない

 帰国して数日が経つが、ドーンという轟音、空襲を伝えるアラート音、そして、現地テレビに流れ続けていた悲惨な映像が頭を離れない。

 一方で、日本のメディアが報じるイラン関連のニュースを見ても現実味がなく、昨日までいた場所のリアルな情景は到底伝わっていない。

 いつどこで戦争が始まるかなんて、誰にも分からない。ドーハ、サウジアラビアで過ごした中東での10日間、遠い存在だった戦争が他人事でないことを体感した。

最初から記事を読む 「ドーーン!とホテル中が震えるような音が…」イランの報復攻撃の最中、ドーハで足止めになった編集部員が緊急レポート 「戦争の真っ只中にいるんだ」と実感

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